かなり悪いオヤジ

レッドタートル ある島の物語のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

4.8
ジブリ自らこのオランダ人監督へラブ・コール、名匠高畠勲の協力を得ながら、製作になんと8年もの歳月をかけてしまったがために、最後のジブリ作品の名誉に授かった長編アニメである。

プロデューサーの鈴木敏夫は最後のジブリ作品を外国人が監督してもそれはそれで面白いと思ったらしいが、本作を見た駿先生に火がついた。一度表明していた引退を取り消したという。

駿先生『最後のジブリ作品が外国製というのはまかりならん』というのは口実で、本作を見て内心『やられた』と思ったにちがいない。それほどレベルの高いアニメーションということだ。

ユーロ圏では数々の映画賞に輝く本作も、国内興行成績は大爆死状態だったいう。残念ながら、宮崎駿というブランドにしか興味のない日本人の民度の低さをさらけ出す結果に終わってしまった。

この長編アニメの良さを理解するためには、一日最低1時間瞑想修行して、YOUTUBEだのINSTAだの情報過多社会で生きている我々の脳を一度リセットする必要があるだろう。

あの名作ゲーム『ico 』と同じ全編ほぼサイレンスという大胆さ。日本の古典童話『浦島太郎』や『鶴の恩返し』を詳細に研究したと思われる構成。さらに、過去のジブリ作品や『グラン・ブルー』『人魚姫』にも相通じる自然への畏敬を取り込んだ切ないラブ・ストーリー。

大自然の営みの中では人間など所詮とるにたりない存在であることを証明するかのように、映画は登場人物を限りなく小さくとらえたロング・ショットを多用する。

『千と千尋』に登場するクロスケのような存在とでもいうべきか、登場人物の気持ちをトレースするカニ・ファミリーのお茶目な仕草に萌えながら、男や息子がみる幻想的な夢のシーンにこのオランダ人監督独特の感性が伺える。

無人島に漂着した男に恋をし、男をひきとめるべく三度筏を壊してしまうレッド・タートル。出会いの時に男の顔を懐かしそうになぞる女(レッドタートル)の仕草や、別れの時が近づいた時に月明かりの下で踊る男とのダンスは、過去にも同じような男がこの島に漂着したことを物語っているのではないか。

“亀は万年”というけれど、その寿命の長さ=時間の流れる早さの違いが災いして、決して同じ一人の男とは添い遂げることのできない女=レッドタートルの切ないラブ・ストーリーが隠されていることも付け加えておきたい。

昔々 浦島は 
殺した亀と 結ばれて
無人島に すんでみれば
言葉も失う パラダイス