むーしゅ

レッドタートル ある島の物語のむーしゅのレビュー・感想・評価

2.7
 初めて海外との共同製作に挑戦したスタジオジブリの作品で、監督は「岸辺のふたり」にてアカデミー賞短編アニメ賞を受賞したMichaël Dudok de Wit。「岸辺のふたり」を見た宮崎駿本人が「もしいつかスタジオジブリがスタジオ外(海外)のアニメーターをプロデュースすることを決めるなら、それは彼だ」と話したそうで、まさにお墨付きでの就任だといえます。

 嵐の中溺れていたひとりの男が目を覚ますと、そこは豊かな自然が残る無人島だった。島からの脱出を試みていかだで何度も海へ繰り出すが、その度に何者かにいかだを壊され島に戻ってきてしまう。ある日同じようにいかだが壊された時に現れた赤いウミガメを見てそのウミガメが犯人だと思った男は、島の浜辺で赤いウミガメをひっくり返しついには殺してしまう。後悔する男だったが数日するとその甲羅の中に女が横たわっているのを見つけ、彼女を看病することにするのだが・・・という話。全編台詞が無く、どう解釈するかはお任せしますというようなスタイルで、公開時から言われていましたが、日本人なら浦島太郎と鶴の恩返しを勝手に連想してしまいます。

 この映画は日本人と外国人(特に欧州)によるアニメに対する考え方の違いが非常に良く表れています。小さい頃から様々なアニメを毎週見ていた日本人と違い、海外のアニメの多くは一話完結型。その影響により、多くの外国人にとってアニメとは映画やドラマと同様の物語的わくわくを感じるものではなく、あくまで子供が見る暇潰し的な位置付けで、大人になってもTVアニメが好きというと変わり者認定されます。そんな環境だからこそ生まれた海外の大人向けアニメ映画はアート作品として地位を確立しており、宗教画の延長上に存在する絵画的な作品になります。対して日本の大人向けアニメは、一通り見飽きた子供向けアニメでは表現出来なかったより深く複雑なストーリーに注力し、また子供向けTVアニメでは出来なかった作画にこだわりを持っている場合が多いです。そんな違いから本作は欧米では非常に評価されているにも関わらず、私自身含め多くの日本人からは「何が言いたいかわからない」「察しろと言われても」という感想になってしまいます。あまりにも想像通りでしたが、深い映画ですと言わせたいかのように、なにも語らずただ淡々と進むという印象でした。ただ想像出来る領域が広いことと深いことはイコールではありません。

 ところで、本作を通して気になってしまうのが主人公の瞳です。ジブリ作品では目を見開いている人物をよく見かける気がしますが、本作の主人公の瞳は黒い点。レイトンシリーズのレイトン教授のような顔をしています。目は口ほどにものを言うということわざもある通り、口を封じた(セリフを無くした)作品は本来なら目が大切になってくるはずです。しかし本作ではその目さえも封じることで、より登場人物の考えがわかりづらくなっています。解釈を視聴者側の判断に任せたい意思は伝わるのですが、正直言えば瞳くらい書いてほしかったです。背景や動物(ウミガメなど)は細かく描いていたり、こだわりがみられるのに対して、人間は非常にシンプルに描かれていて何だか世界観の違いが滑稽に見えます。

 後半にて島で生まれた子供は父が島を出ようとしたように外の世界へ旅立つことを決めます。いがたを作るのかと思いきや、まさかの泳ぎ。ある意味衝撃でしたが、そんな彼の泳ぎ方は足を使わずまるでウミガメのようでした。こんなシーンすら何を考えるも自由なのでしょうが、あまりの自由度の高さに長編では無くショートフィルムで十分かなと感じました。共同製作作品の今後に期待したいです。
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