津次郎

ミス・ワイフの津次郎のレビュー・感想・評価

ミス・ワイフ(2015年製作の映画)
4.0
オムジョンファは長いキャリアの女優で、ヒット曲をもつ歌手でもあったことから、本国では世代それぞれのオムジョンファ体験があるようだ。日本でいえば松田聖子みたいな感じだろうか。90年代、韓国映画を見はじめたころからいたひとだった。が、まだガガみたいなビデオクリップも撮ったりする。

顔に韓国女優らしい変化がある。が、いまの顔は固定している。特徴はいかにもなふたえと、肉感的な印象。性的魅力の打ち出しが大きく、あだっぽい。
かつては、いじった感の高い、線が残るふたえだったが、いまは顔のなかに馴染んでいる。もうやらないほうがいい。いじった顔が長谷川さん平子さんになりドナテラになり最終的にJocelyn Wildensteinになることを、人は知っている。

ロマンチックコメディが本領域だった。ミスターロビンやどこかで誰かに何かが起こると必ず現れるホン班長やホロヴィッツのためにや一番美しい一週間・・・VHSレンタルで見たのもある──と思う。よくおぼえていないが、彼女の女優としての黄金期が韓国映画の高度成長期──90年代~00年代と重なっていた。

韓国の女優は、みんな演技派でもあるが、とりわけ演技派女優といえば──チョンドヨン、ムンソリ、ペドゥナ、イヨンエ、キムヘス・・・、映画寄りの女優が挙がると思う。
オムジョンファは来歴が歌手廻りなので、その枠組みに入りにくく、また著名な巨匠の映画にも起用されてこなかった。が、とうぜんのように演技派だった。

すこし愛嬌ある顔がうまく韓国ノワールに乗らない──のかもしれない。オーロラ姫や悪魔は誰だはノワールだったし非情も演じられるのだが、やはりコメディで映える女優だと思う。
この映画はその特徴を生かしている。とても巧いし、とても面白い。コメディ要素をふんだんに持ちながら、本格的な演技で泣かせる──懐の広さをみせた。

クールな法律家を市井の主婦たちの渦中へ放り込んだらどうなるかに焦点を置き、さいしょのうちは自尊心によって心を閉ざしているものの、やがて家族への愛着が芽生える。
構造はわかりやすいし、じっさいそこへあざやかに着地する。
考えてみれば、それを演じるには、理知とコメディエンヌと母親がなければならない──わけである。やはり達者な女優だった。

韓国コンテンツはいずれも、登場人物の感情の起伏がはげしい。かれらは、笑い泣き怒らなければならない。その振幅が、日本と比べて大きい。軽いコメディにも、がっつりした愁嘆場があったりする。泥臭くなってしまうことを、いとわない。パンソリに感じる鄙俗性が、映画やドラマに表出してくる。必然的に、演技派にならざるを得ない。そんな気がする。
津次郎

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