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KUBO/クボ 二本の弦の秘密のsatoshiのレビュー・感想・評価

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(2016年製作の映画)
4.2
 「コララインとボタンの魔女3D」「パラノーマン ブライス・ホローの謎」などで知られるストップモーションアニメ制作会社、スタジオライカ最新作。何と今度は日本が舞台。「海外の映画で日本が舞台」と聞くと、思い出されるのはトンデモ日本描写の作品。しかし、本作にはトンデモな描写は全くなく、むしろ日本の伝統的な慣習を違和感なく物語に組み込み、そしてそれを圧倒的なアニメーションで魅せている大冒険活劇でした。

 本作を見て真っ先に心奪われるのはストップモーション・アニメのクオリティ。コマ撮りとは信じられないくらい良く動きます。そして日本リスペクトの塊。もう最初の神奈川沖浪裏から鳥肌立ちまくりでしたが、クボが三味線で折り紙を操りだしたとき、その素晴らしさに目を見張りました。他にも町の家1つの1つや、売り物、着物など、その1つ1つが丁寧に作り込まれている。ここからこのスタッフたちの「本気度」そして、日本への深い敬意が伝わってきます。

 また、物語も日本的なものに満ちています。内容は親に先立たれたクボが、自らの身を護るため、そして月の帝と戦うために途中で出会ったお供、猿、クワガタと共に「三つの武具」を探す、といったもの。完全に「古事記」や「桃太郎」、「竹取物語」といった日本の伝承・昔話がモデルです。しかし、本作はこの模倣で終わらず、「家族の物語」という普遍的な話にまとめ上げていました。

 本作の最重要アイテムは三味線。クボは冒険を通して、クワガタ、猿と疑似家族とも呼べる関係を築いていきます。そして家族から受け継いだ「あるもの」を合わせ、帝を撃退します。二本の弦の秘密なわけです。

 ライカは、本作のテーマを「わび・さびの心」としています。クボは自身の手で物語を終わらせることができません。いつも途中で終わってしまいます。それは彼が母から物語を最後まで聞いていないからなのですが。しかし、本作の冒険は、この「物語」をなぞったものになっています。クボは、この冒険で「自身が終わらせられなかった」両親の物語を終わらせるのです。そしてその物語とは、人生そのものな気もします。人生が物語だとしたら、死を持ってしか完結しません。

 本作には非常に仏教的な思想もあり、敵の月の帝は、極楽浄土の世界こそ完璧な世界だとしています。それ故、ラストで帝を拒否することで、「未完」である生命そのものこそ美しい、という讃歌にまで押し上げているのは素晴らしいと思います。

 そして、ここで出てくるのが灯篭流し。本作では重要な役目です。ラストのこれにより、本作はクボが「両親の物語」を終わらせ、そしてまだ未完である「自身の物語」へ向かっていく話となったと思います。

 ここまで褒めましたけど、微妙なところがあったのも事実。序盤は本当に素晴らしかったのですが、中盤から、物事が上手くいきすぎな感じがしました。その最たるのがクワガタ関連です。ちょっと都合良すぎじゃないか、あれ。後、最後の武具があるところがあそこってのも何か引っかかります。折り紙の半蔵は知らなかったのかな。でも、最後は最初の場所ってのも面白いとは思いましたけど。

 とまぁこんな疑問も抱いたのですが、エンドロールでどうでもよくなりました。何という忠実な浮世絵リスペクト。最後まで目を釘付けにさせる作品でしたね。でも、最後のアレは「見せちゃうんだ・・・」と思ったり。クボたちが「本当に生きてる」と思い込んでしまっていただけに少し残念だった。でも、些細な問題ですよ。
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