磔刑

KUBO/クボ 二本の弦の秘密の磔刑のレビュー・感想・評価

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(2016年製作の映画)
2.8
「親の因果が子に報う」

キャラデザや景観、小道具等の至る所で見られる造形美。それに伴う世界観構築は凄い作り込まれていて素晴らしいと思う。作品全体に漂う日本感は観ていて洋画である事を忘れる程の説得力に満ちている。
個人的にはサルが凄い可愛く見え、クワガタやクボに対するツンデレっぷりは正に“萌え”の一言に尽きる。そのサルにメンヘラ紛いのシスコンっぷりを見せる双子の姉妹もいい味を出している。仮面の下の素顔は完全には見えないものの、美人である事を伺わせる設定もまた良い。こいつは薄い本乱立待った無しである。
上記のようなキャラ付けにおけるケレン味もそうだがバトルシーンの魅せ方なんかも日本の漫画やアニメ、和ゲーのムービーシーンを想起させる。ガシャドクロ戦は『ワンダと巨像』のようであり、今にも「ガッシャーン!」と言いながらガシャポン(“ガシャポン”はバンダイの登録商標である)を回しそうな気迫である。そのガラパゴス真っ只中の雰囲気にハリウッドの垢抜けた演出がハイブリッドされた独創的で活気に溢れたシーンが多く楽しめる。
しかし、ストーリーやプロットの面などは「うーん???」となってしまう部分が多々ある。

物語の流れやテーマは『リメンバーミー』と同じだ。物語の核心を隠し、進行させる点も全く一緒だ(ちなみにその核心の内容もかなり似ている)。
物語の核心はクボの動機や物語の推進力、目指すべきゴールなどなど物語の大事な役割を果たしている。しかし、いかんせんそれを隠して進めるもんだからイマイチクボの目的がハッキリしない上にバックボーンも見えないので感情移入もし難い。三種の神器を探すにしても何故それが必要なのか、見えない部分が多過ぎて今ひとつ説得力に欠いていて物語に入りにくい。
それに隠すなら隠すでもっと上手いことしてくれないと核心が明るみに出た時に良いサプライズにならない。終始「猿と虫は親なんでしょ」って思いながら観てて「どや!驚いたやろ!!」って言われても予想通りだし、こんなに見え透いてるなら隠さなかった方が良かったのではないかと思える。そもそも隠して上手く作用する部分は少なく、隠す事で概要を掴みにくくしているのだから隠す必要性はなかった様に思える。両親の記憶が何故消えているのか、帝は何故クボの目を狙うのかにも明確な設定が無いのも物語の説得力を奪う要素だ。

物語構成も会話パート→ボス戦→会話パート→ボス戦と単調な構造の繰り返しで冒険活劇にしては退屈に思える。会話劇に至っては本当にただ会話してるだけの割には尺が長く、問題解決に前進しておらず余計に物語の勢いを殺している。猿と虫の痴話喧嘩やクボとの言い争いも必要以上に多くノイズに感じる。一人寂しく生きたクボからすれば家族と心を通わす愛おしく、貴重な時間ではあるが月の帝と戦ったり、武具を集める事を目的としたストーリーにおいては蛇足が過ぎる。
説教くさい演説調のセリフがバトルパートに挟まれるのも推進力の低下に拍車をかけている。そんな所まで日本リスペクトしなくてよろしい。バトルパートの勢いや画の見栄えはグイグイ引き込まれるが会話パートは正直つまらないまである。結局、二極化された構造の温度差さに問題の根源があるように思える。

問題の落とし所も随分とこじんまりとしており、その点も『リメンバーミー』もしくは『ブレードランナー2049』に似ている。宝具を守る化け物とか地球人対月の帝みたいな壮大な世界観の風呂敷は広げるものの、平たく言えば婿舅戦争の家族レベルの問題に終始してしまって尻すぼみな印象は拭い切れない。
『リメンバーミー』との類似点はかなり多いものの、日本とメキシコの死や死者に対する概念、考え方の違いが顕著に見られるので合わせて鑑賞しても良いと思う。日本リスペクトが多分に感じられるビジュアルはかなり満足感が高い。だが語り口とか“魅せたい演出の壮大さ”に対して“伝えたいテーマの矮小”さのバランスの悪さが如何ともし難く、アクションと会話の温度差と同じように壮大なファンタジーと家族愛が相互に上手く作用してないように思えた。
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