みかんぼうや

海よりもまだ深くのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
3.4
【是枝監督はロマンチストにしてシニカルな現実主義者か。 “普通の人”を演じる樹木希林の存在感が圧巻の切なくも優しいホームドラマ】

是枝監督の作品は「万引き家族」、「そして父になる」しか観たことはありませんが、ともに好きな作品だったので本作も期待して視聴。

3作ともに全て“家族”をテーマにしていますが、先に挙げた2作はその中で“格差・貧困”や“新生児取り違え”という重い社会派要素が主軸になっていることを考えると、本作は“離婚後の家族関係”が要素として入っているものの、それ自体はこの時代何ら特別なこととは感じないので(私自身、小学生になる直前に両親が離婚しており、それが普通になってしまっているからかもしれませんが)、既に観ていた冒頭の2作品に比べると、社会派映画というよりは、“和やかだけどちょっと切ないホームドラマ”という印象。逆に「是枝監督って、こういう作品も作られるのだな」とちょっと新鮮な感覚でした(「誰も知らない」も社会派テーマ強めの映画だったと記憶しているので)

そう考えると、冒頭2作より作品としてのパンチやメッセージ性は正直落ちるものの、阿部寛演じる主人公が、有名小説家を志しながら己の欲望に勝てずギャンブルの甘い蜜に浸かり家族を幸せにできなかったけど、息子を、そして今も奥さんを愛し出来ればよりを戻したいなんて思っている“決して悪い人ではない人間味溢れるキャラ”が逆に現実味があって、なんか愛すべき男だな、と思い、温かい眼差し!?で観ておりました(なんか上から目線ですが)。

この“ちょっと淡い期待や幸せに思いを寄せるけど、現実は冷たくも現実”という作りは是枝監督の感性によるものなのかな。今まで観てきた3作でそれぞれ色やテーマは違うけど、このあたりは共通性を感じます。ロマンチストだけど、シニカルな現実主義者、というか。とはいっても、是枝作品は超有名作目白押しの割にまだ全然観られていないので(なにぶん邦画を本格的に観始めたのが比較的最近なので)、他の作品観たら、また印象変わるかもしれません。

個人的な本作の最大の見どころは、やっぱり樹木希林さんの演技でしょうか。「万引き家族」や先日観た「日々是好日」あたりの演技ももちろん素晴らしいですがそれらの作品は役柄が少し特徴的だったのに対し、今回は改めて“普通の人”を演じる樹木希林さんの自然体な演技に魅了されました。なんというか、“キャラクターの凄み”とかそういうのではなくて、“すぐ隣にいそう”なんですよね。 “どこかで会ったことがある”感じ。それが彼女の演技の凄みなのだと思いますが。

阿部寛は実は映画ではほとんど見たことがなく、テレビドラマ向けの“熱く激しい”役が似合っている印象がありましたが、このだらしないダメキャラもいいですね。樹木希林さんとの掛け合いが、やっぱり“どこかにいそう”な親子で良かったです。

是枝作品、人気作多いのにまだまだ全然観られていないので、今年いっぱいをかけて一通り観たいと思っています。
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