masayaan

海よりもまだ深くのmasayaanのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
3.5
凍らせたカルピス、乾麺、あるいは墨といった、「とかさなければ使いようのないもの」が、日常生活の中で度々登場する。その演出意図はおそらく平易で、固まっているものをとかす、ようにして、固まりつつあった親-子、夫-妻のあいだで少しだけ何かがほぐれていく。ということなのだろう。また、それらが「とかしたところで完全には元の姿に戻らない」という意味においても。言ってしまえばそれだけの映画であり、家族の在り方を様々なバリエーションで描いてきた是枝映画のなかにあって、本作での家族にまつわる「設定」は、決して人目を引くようなものではない(「設定」よりも「状況」を優先している)。あるいは、「ホームランを打ってヒーローになるより、四球で塁に出たい」という子の消極性に表れているように、その父にしてもこの映画の物語にしても、逆転ホームランをスタンドに放り込むような劇的さは皆無である(これらは否定と言うより、本作の示す傾向の事実的な確認である)。むしろ、サビのはっきりしない(アルバムの4曲目とか8曲目あたりに入ってそうな)ポップソングのように地味と言えば地味で、事態は淡々と推移し、その他いくつかの観点から言ってもやはり、『歩いても歩いても(reprise)』といった印象を残す。超メジャー作となった『海街』のフォローアップという意味ではその地味さゆえに好印象、というところだが、シネフィルガチ勢の皆さまからすれば上記のような演出意図の把握と言うのは、丁寧さよいうよりむしろ丁寧さを装った「誘導尋問」のように感じられるだろうし、フィックスが多用されたカメラの動きや、居間における人物の配置や視線の方向、そしてそれを切り取る構図にしても、いささか野心を欠いた伝統重視の安定路線(=シネフィル的なお作法)に映るだろうか。またこれは好みによるだろうが、「パンチライン」的な科白の量はこれくらいならば自分は許容できるのだが、本作ではメタ的な(=セルフツッコミ的な)「茶化し」が氾濫しており、そのコメディもしくはお笑いちっくなノリが「いいお話過ぎるのを回避」するための予防線にも思えて、かえって気になってしまった。総じて、子役のパワーが是枝映画の中では相対的に弱く、刻むのならば3.8といった具合。真木よう子はとても良かった。

ps、全体を損なう致命的な瑕疵とまでは言わないにしても、素朴なリアリズムの問題として、食券制の立ち食いそば屋では食券を買わないといけないし、その立ち食いそば屋にしてもモスバーガーにしても、経験的に見て、あんなに接客丁寧じゃないよなー、とは思ってしまった。
masayaan

masayaan