マクガフィン

海よりもまだ深くのマクガフィンのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
3.6
団地を舞台に大人になりきれない男とその母を中心に、夢見ていた未来とは違う現在を生きる家族の姿をつづった人間ドラマ。

家族を再生させたい母親、焦燥的な元妻、したたかな姉、身勝手な大人達による生活環境で育つ息子が登場することで、良多は、息子・夫・弟・父親として全てに問題がある正真正銘のダメ人間であることが浮き彫りになる。思っていた未来とは少し違う現実を生き、過去に囚われた大人達の家族の姿が印象的につづられ、家族と人生というテーマを掘り下げている。

母親は決してなりたい人生ではなかったが、それでも今を生きている。人生は思い通りにならないもので、過去の栄光や人と物への執着を捨てれば新しい何かが手に入り、楽に生きられることを息子の良多に諭す。しかし良多は固執や執着が多く理解できないのだが、客観的に鑑賞している人には心に響く。それでも母親の愛情が良多の人生の救いになっているだろう。

団地、使用禁止の滑り台、台風などの心象背景が大人たちの悲哀を際立たせて野球、手料理、本などの心情を代弁する方法も映画に味をもたらす。

良多は幼少のころから亡き父親のようにはなりたくないと思っていたが、そのような大人になり、息子の慎悟も父のようになりたくないと思っている男三代の脈々と繋がる家系図が面白く味わい深い。野球シーンなどに暗示されるように慎悟にも継続することは、息子の表情が良いだけに切なくなる。

親子人生の継続の奥深い一面は、良多によく似た亡き父親の思いに触れることで少しだけ成長する瞬間を描くが、慎悟も良多の思いにより少しだけ成長し、別離した家族の心境に僅かな希望の光が差し込む。

普遍的な設定は是枝映画にとって物足りなさを感じ、映画的な抑揚が少ないが、それでも演技と情景の構成で味わい深く構築し、自然で心温まる人間ドラマに仕上げ、断定的結論を押しつけないことで思考を促される手法は是枝監督ならでは。