カツマ

海よりもまだ深くのカツマのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.4
夢見た未来ってどんなだっけな
さよなら、昨日の僕よ。

この言葉はエンドロールで流れるハナレグミの曲の冒頭部分。そう、誰もがみんな何かを諦めながら生きている。目の前に浮かび上がるのは現実という名の今と、こんなはずじゃなかった人生。かつて夢見た未来が過去になったと分かっていながら、そこに幸せという名の見えない色を付けようとする。この映画はそんな普通の大人が、心の底で自らに語りかけずにはいられない自問自答を映像化した作品なのだと思った。
阿部寛と樹木希林親子のあるあるな会話劇が妙に面白く、ついつい『あれ』が『あれ』するとか言ってしまう姿にうんうんと頷いてしまったり(笑) 全部がアドリブのように自然で、そんなところにも脚本も兼任する是枝監督の凄さが伝わってきます。

かつては文学賞も受賞した作家の篠田良多は、その後ヒット作が続かず、落ちぶれた生活を送っていた。離婚した元妻の響子からは見放され、月に一度息子に会うのが拠り所となっていた。
篠田は作家活動の情報集めと称して浮気調査を生業とする興信所で働くも、稼いだ金はすぐにギャンブルで擦ってしまい、相変わらず貧乏なまま。年老いた母親の実家に帰ってはお金を無心しようと実家の戸棚に探りを入れるも、その都度姉の妨害に合い、やっぱり貧乏なままだった。
そんな篠田のもとに出版社から漫画の原作の打診があるも、彼の作家としてのプライドが邪魔をしてしまい・・。

劇中の樹木希林が終盤に滔々と語りかけるあるセリフは、役柄を越えて、まるで彼女が生きることに迷える誰かへと向けたメッセージなのではないかと思えてくる。テレサテンの『別れの予感』の一節のように、人生とは海よりもまだ深く、空よりもまだ青く、それは何か目に見えるものよりも濃い。だからこそ、人は淡々と毎日を迷い、幸せをどこかに求め、自然と落としどころを見つけていくのだろう。

エンドロールで流れるハナレグミの『深呼吸』という歌は最後にこう歌う。

夢見た未来ってどんなだっけな?
Hello,Again、明日の僕よ。

そう、これは明日の僕へと向けた物語。きっと夢見た未来はまだ先にあるよ。
カツマ

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