amu

海よりもまだ深くのamuのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.8
心の奥にすっと入ってきたカメラが、自分の目から映写機を通して心の内をまるごと映し出し、一周まわって現在の自分がそれを眺める…というような作品で、相変わらず胸がぎゅうううとなった。泣きたいのに涙が出ない感覚も是枝さん特有の相変わらずさだった。

私の実家も団地だった。駅からバスに乗って到着するマンモス団地。緑が多く静かで鳥のさえずりが聞こえる小高い山の上にある集合体。うちは借家だったが、父親が銀行員や大手企業、母親は専業主婦で学校から帰宅すると手作りおやつとあたたかい紅茶を淹れてくれるような家の同級生は、団地の中でも分譲の建物で、子供の頃は分譲と借家があることなど知らなかったし、それらを大人になって知った時、妙に納得したところがあり、その生活水準の絶妙な格差が作中にも表れていて、ちょっと笑った。

阿部寛さんの演技、本当いいですね。真剣になればなるほどコメディに見えてくるそれはもう才能です。言わずもがなですが、樹木希林さんのそこに本当に存在し生活しているとしか思えないナチュラルな演技は語るに及ばず。素晴らしいです。

そして阿部寛さんに完全感情移入してしまった。性別を含めて彼とリンクするようなものは何ひとつ無いけれど、してしまった。プライドとか、かなぁ。未練を引きずってというのも無いのに不思議だけど、海より深く好きだと思いたい人やことがあるからなのかもれない。
amu

amu