Inagaquilala

天国はまだ遠いのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

天国はまだ遠い(2015年製作の映画)
4.0
現在のところ濱口竜介監督の最新作品。「ハッピーアワー」のクラウドファンディング協力者への特典として企画された38分の短編だが、中身はあいかわらず濃い。台詞の量と質から言えば、かなりの重量級だ。

AVのモザイク処理を職業とする雄三(岡部尚)の元に1本の電話が入る。このモザイク処理をしているという設定がまず秀逸。そこに存在するものを隠すという作業が、雄三の立場を明らかにしているようにも思える。

電話の主は、死んだ姉の追悼ドキュメンタリーをつくっているという五月という女性(玄理)。喫茶店で会うと、17歳で死んだ彼女の姉・三月の関係者から話を聞いて回っているという。このとき映像では、雄三と生活をともにしている若い女の子が同席しているが、突然、ふたりの間に割って入ったりして不思議な動きをして、おやっと思う。

最初は取材を固辞する雄三だったが、結局カメラの前に立ち、三月のことを話し始めることになる。このときも女の子は一緒にいて、インタビューを聞きながらも寝入ったりしてしまう。この頃からどうやら彼女は死んだ三月の幽霊で、どうも妹の五月にはそれが見えていないことに、観ていて気づく。

雄三が五月に向かって、三月はそこにいると言い始め、彼女が雄三に憑依するかたちでインタビューが続行される。はっきり言って、幽霊が登場する作品ではあるのだが、濱口竜介が撮ると、それはすぐ隣にある現実のように物語が進行していく。

上映時間317分の大長編の後に、38分のこの作品だが、妙にふたつは似通った表情を見せる。雄三はひたすらカメラの前で三月に取り憑かれながら話し続けるが、このシーンは「ハッピーアワー」の第2章のワークショップのシーンにも通じるし、ある種のセラピーのようにも見える。

幽霊である三月役の小川あんの瞳も魅力なのだが、自分的には「PASSION」や「永遠に君を愛す」の河井青葉に似た「直線的心情」を抱いた五月役の玄理に惹かれた。彼女が最後、雄三と抱き合うとき何故か音量のレベルが上がって(多分演出なのだろう)、心臓音がばくばくと聞こえてくるのが生々しくて妙に感心した。

これまで観てきた濱口作品にはいつも最後に真の感情を取り戻す女性がいて、それを河井青葉なり、この玄理が演じている。虚飾を脱ぎ去った後のほんとうの顔、濱口作品を貫くのは、それに至る過程がに誠実に、そして丁寧に解き明かされていく点だ。結局、いつもそこに自分は心を動かされている。
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