ノラネコの呑んで観るシネマ

ダンケルクのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.8
非常にノーランらしい作品で、これは従来の戦争映画とは概念がかなり異なる。
シチュエーションは確かに戦争なのだが、実は戦う相手はドイツ軍ではない。
ドイツ兵の姿は全く登場しないし、冒頭の字幕でも"ドイツ軍"ではなく単に"敵"と表記される徹底ぶり。
この映画で人々が戦い、排除しなければならない相手は、劇中の台詞でも示唆される通り人間自らが作り出した"罪"なのだ。
その意味で、これは「ダークナイト」でジョーカーという象徴的絶対悪に、市民一人ひとりが信念を持って立ち上がった展開の延長線上にある。
この映画に描かれるいわゆるダンケルク・スピリットは、おそらく人間ノーランの思想の根源にある部分。
現実の戦争をリアルに描くというより、史実をモチーフにした寓話と言える。
だから「プライベート・ライアン」以来の戦争映画スタンダードとは、描きたいことが根本的に異なるのである。
ノーCGのフィルム撮影とかの技術要素、時系列の異なる三つの物語が複雑に絡み合うプロットなど、細部に至るまでノーラン節が全開。
例によって圧倒的な密度なのだが、上映時間が106分と短めなので、彼の作品としては意外と疲労度は少なかった。
ブログ記事:
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