nero

ダンケルクのneroのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.5
観終わって最初に感じたのは「え、2時間経ってないの??」という時間感覚の混乱感だった。

1940年パリ陥落直前、つまりドイツ軍絶好調の頃。“ダイナモ作戦”として著名な、ダンケルク海岸での撤退作戦の中の一週間に、徴用され救助に向かう民間船の一日、そして支援に向かう戦闘機隊の一時間、を同一の時間軸にぶち込んで描く。まさにクリストファー・ノーランの時間マジックに翻弄される106分。インセプションでみせたように、時間と空間を自在に切り取り繋ぎ合わせる。普通なら単なる繰り返しの重複表現になってしまうところを、ダイナミックに視点を変え、重層化された時間として描写する。体内時計が狂うのも当然か。

様々な思惑ゆえ救出に全戦力を投入されることもなく、海岸でただ救出を待つ40万の英仏の兵士たち。沖にはUボートが潜み、スツーカの爆撃が容赦なく彼等を襲う。救助船、駆逐艦も撃沈され、海中に投げ出される兵士たち。海岸で、船上で、民間船で、水中で、そして空中で、それぞれ緊迫した時間が流れる。為す術なく、だが屹然と立ち続ける司令官の無力感も伝わってくる。
ドイツ兵がはっきり描写されるのはラストシーンのみ。カメラは徹底して、戦う姿ではなく、追い立てられ逃げ惑う兵士たちを追う。捉えるのは、単なる戦場リアリズムとも違う、完璧な計算のもとに切り取られた生命のリアリズムの断章だ。

マーク・ライアンスがやはり印象が強いが、この映画には主人公は設定されていない。トム・ハーディも後で気づいたほど。シークエンスごとにフォーカスされる対象が移行する。史実を無駄にディテールアップすることなく、ただ情景を積み上げていく、情報密度の濃さに圧倒される。

CGなしの空戦シーンは圧巻だ。実写故メッサーシュミット(改造機)のプロポーションが少々異なるのは目をつぶろう。爆撃機もね。(ドイツ機も実機だったら満点だったのだが・・・)
とにかく、スピットファイアがこれほど美しくスクリーンに描かれたことは無かったんじゃないだろうか。むしろ自分的にはこの映画の主役と言ってもいいくらい。最後の無音滑空シーンでは涙が出そうだったよ。いやあIMAXで観て良かったぁ!
ただし、心臓の鼓動に共鳴するような重低音SEがずぅっと続くんで、息が苦しい。すげえ疲れた。
nero

nero