まぐ

ダンケルクのまぐのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
3.9
今まで見た戦争映画の中で1番、戦争を一つの「やばいシチュエーション」と割り切って娯楽に昇華している戦争映画でした。
見る人が見たら不謹慎だとも言いかねないんじゃないか、とも思うのですが、自分はすごくこの割り切り方が好きでした。
(とは言ってもちゃんと戦争=怖いもの、という方程式を徹底して描いているので言うほど反発する人は少ないかもです)

自分はノーラン作品のピンチの演出が好きで好きで…バットマンシリーズもインセプションもインターステラーも、共通しているのは「主人公たちへの徹底的な追い込み」と「異なる複数の時空間で同時並行で起こるサスペンス」。そこまで追い込む!?というピンチを2、3個同時に別の時空間で引き起こし、こいつ助かるの?助からないの!?という良いところでまた別の時空間のシーンへ、というノーランのドSメソッドは、今作でも健在です。時間差を活かしたサスペンスはもはや職人芸。
また、「水の侵入」という、時間に制限をつけ切迫感を生み出すシチュエーションを他のピンチと組み合わせながら上手く使いこなしているのはさすが。海上での戦争、空対海の戦力差…正直、これがやりたくてダンケルクでの戦争映画を撮ったのだろうと自分は思っています。
敵だけでなく、味方からピンチが生じるのもグッド。

ドSメソッドを最大限活かす為でしょうか、観客の目線が登場人物たちと限りなく近いのも今作の特徴でした。例えば、船が沈没する際、「船の沈没」を描かずに「倒れてくる船の下敷きになる人たち」や「船の中から逃げ出す人」を描写していたり。描きうる中で何を見せると1番観客が恐ろしく感じるか、考えながら作られているのが伝わります。

登場人物たちに近い目線という意味では、音響も素晴らしかったです。遠くの音は遠く、近くの音はちゃんと内蔵された機械の音まで聞こえてくるくらい鮮明に。この作品では敵がほとんど見えないこともあり、音のリアリティにはかなり拘って作られている印象を受けました。

ただ今作は今まで見て来たノーラン作品に比べ、かなりサッパリした映画だなぁという印象を受けました。見る前からノーラン×戦争映画という組み合わせにハードルを上げまくっていたせいもあると思いますが、やはり主人公たちのバックボーンの描写が極端に少なかったのが自分の好みにはあまり合っていなかったようです。ノーラン作品には胸熱なカタルシスを期待している自分がいる…
また、時間差があるという設定にしろ階段から落ちて死んだ彼にしろ、様々な要素が最大限に活かしきれていない、まだ魅せてほしいと思ってしまうのはやはり全ての要素が完璧に作用し合う過去作が凄すぎたんでしょうね。他の監督の作品であればもう少し自分の中での評価は高かったかもしれなかったです。
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