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ダンケルクのohassyのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.0
今もっとも映画にお金を払う価値を生み出せる人、クリストファーノーラン監督は47歳。
自分と同世代と言っていい彼が作る戦争映画はどんなだろうかと、ずっと待っていた。
期待しちゃいけないって言ったばかりでアレだけれど、ホント待ってた。

CG使わないってどんだけ製作費かけるんだよワガママだなと、プロデュースの気持ちが一応わかる人間としては思う反面、どれだけ精緻なCGだとしてもそれはやっぱり人が人の想像の範疇で描いたものでしかなく、結局は都合のいい、収まりのいい画にしかならないとも思う。
モノの壊れ方とか人の表情とかレイアウトとか風の影響とか、そういうランダムさを内包する表現が画一化してしまうわけで。
まあどれだけワガママでも僕に直接的な被害はないので、これからもそのスタンスを貫いて欲しい。

でも大変さは想像がつく。
特にこういう映画は安全面への配慮が大変で、CGならパソコンの中で好きにできるところを、見えない部分での事故が起こらないための苦労がきっとすごい。
もう一つはカメラの設置で、これがまた実はすごく大変なことで、実物を撮影するための工夫や苦労がこれまたやばい。
航空機の狭い操縦席にIMAXのカメラなんて絶対に入らないから、きっとレンズだけ入れて筐体は外付けとか、そのための装置をイチから開発したりしている。
こちらもCGならどんなアングルも撮り放題なのに。
天候や人的都合で撮影が遅れることもある。
1日無駄にすると数百万円、ハリウッド大作だともう一桁大きいかも知れないけれど、損失が出るわけで、完成形もコストも計算できるCGに頼るのは自然なことだ。
だからワガママが許されるのはごく限られた人、今はノーランだけかも知れない。

もうCGを見慣れているので、ダンケルクのような実物で作られた映画は逆に新しいというか、一周回って他では得られない感触がある。
モノは本当に壊れるし、人は本当に死ぬ。
そういう手触りのようなものが視覚を通して体に入ってくるような、CGアニメにはないもの。
ダークナイトシリーズのもっとも優れてる点も同じ、だから他のヒーローものとは違うんだ。
シカゴのど真ん中でトレーラーを吹っ飛ばしたり、夜シーンの撮影のために街を大きな暗幕で覆うなんてバカなこと、そうそうできることじゃない。
普通はデジタル処理でいいか、と思う。
その違いを、価値を明確に思い描いて結果に残せる人しかできない発想だ。

3つの異なる時間軸を巧みに織り交ぜるという発想、それをサスペンスエンターテイメント体験としてまとめる技術(見えないドイツ軍の怖さといったら!)。
製作費を抑えるための構成力、モブを段ボール紙で賄ってしまう割り切りの確かさ。
本当に映画づくりがうまい。
しかもいつも新しい。

と、ベタ褒めだけれど、ダンケルクで1番すごかったのは、これはもう音楽のハンスジマー。
あれを音楽と言っていいのかわからないけれど、不協和音と時計の針の音のようなものとで、感情を無遠慮にコントロールしてくる。
映画に音楽が付いているのではなくて、視聴者の感情をリアルタイムで表現しているような。
イヤだったなあ。

いろんな解説を読むと、プライベートライアンとの比較が良くされている。
「プライベートライアンとは真逆の演出アプローチだ」なんて感じで、気持ちディスっているような表現もちらほら。
でもね、やっぱり戦争映画における画づくり音作りはやっぱりプライベートライアン前と後で劇的に変わっていて、ライアン後の映画はほぼ影響を受けていると言っていいし、ダンケルクも例外ではないと思う。だからプライベートライアンもやっぱりすごいよ。

スピルバーグの後継者はJJかなとしばらく思っていたけど、「インターステラー」でやっぱりノーランだなと思い直した。
でもちょっと早熟すぎないかな?スピルバーグのように量産もしなそうだしなぁ。
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