ちゅう

ダンケルクのちゅうのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.2
ただただしんどい体感の中で戦争を痛感する。

突然の銃声、こちらへまっすぐ向かってくる爆撃機。
"救助"という自分の力ではどうすることもできない、待つことしかできない幸運を願いながらひたすらサバイブする。

時に誰かに助けられ、時に誰かを救い、時に誰かを蹴落とそうとする。
さまざまな方法を試し、誤り、また試す。
生き残るための知恵というのは試行錯誤の繰り返しだ。


第二次世界大戦下、ドイツ軍に包囲されたフランスの都市ダンケルク。
そこに取り残された40万もの兵士の脱出劇。


"自分ひとりがやったって無意味だ"という意識、諦念からくる冷笑の無意味さがここにあった。
ひとりひとりの果敢な判断が大きな結果を生む。
非常時に必要なことは小さな英雄が無数に現れることだ。
信念と熱意に対して冷ややかな眼差しを向ける集団は生き残れない。
ひとりひとりが正しいことは何なのかを考え行動することが必要なのだ。

逃げ延びた兵士に対する称賛が素晴らしかった。
兵士が逃げ延びるために尽力した人々に対する称賛が素晴らしかった。
戦時下のナショナリズムの高揚を図る部分もあったと思うし、それが悪い方向に向くことは大いにある。
それでもやはり一人の人間としても集団としても正しい反応であると思う。


今、戦時下に例えられるほどの非常事態だ。
この状況を戦争に例えることの是非は置いておくとして、この状況で観る映画としてとても示唆に富んでいた。

映画は戦争を繰り返し描く。
戦争を称揚するためであることもあれば、戦争の悲惨さを訴えるためであることもある。
壮大な映像・音響からくるアトラクション効果で快感を得させるためであることもある。
けれど、今戦争というものを物語として描くもっとも重要な意味は、"どんな時であろうとも人にとって大切なものは何なのか"を描くことだろう。

この映画は際立った感動や爽快感のある勝利も描かず、激しいけれど淡々としていて乾いている。
単純明快な楽しさみたいなものはない。
それでも観る価値があると思う。

こんな時だからこそ、そこにある大切なものに気づけたという気もする。
クリストファーノーランらしい複雑さのある素晴らしい映画だった。
ちゅう

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