さわだにわか

キリング・サラザール 沈黙のミッションのさわだにわかのレビュー・感想・評価

3.8
セガールが動かないしそもそもあんまり出てこないというのは近年のセガール映画の大前提ではあるが、それにしてもこの映画のセガールの動かなさ、カメラに映らなさは特筆に値する。

基本的にいつもと同じファッションでいつもと同じ座り芝居をしているだけだがいつもと同じようにちょっとだけアクションがある。で、そのちょっとだけアクション、ちょっと雑魚を蹴るとか押し倒すとかなのですが、それさえスタント。

これには現代セガール映画擁護派の俺としてもええ加減にせえよセガールと思ったし、同時にセガール病気なんじゃないかと思ってちょっと心配になってしまった。
実際はたぶんやる気がないだけだから、別の映画でもきっちりとそのやる気のないところを見せてセガール健在をアピールしてほしい。してるか。
(ちなみに本筋とはあまり関係のないところで一応悪役との一騎打ちもあるが、リハビリのような動きの鈍さで衝撃的だった。そこは逆にスタント使えよ)

というわけで現代セガール映画はだいたいそうですが、これもセガールをスポークスマンとした非セガールアクション映画。
それでもいつもはセガールを一応物語に絡ませたりするが、そんなヨイショも今回かなり少なめで、実質ルーク・ゴス主演の群像アクション・サスペンスだった。

その出来は。というと個人的にはかなり快作、ゼロ年代に「沈黙の鉄拳」など数々の作品でセガールとタッグを組み、現代セガール映画の雛形を作ったキオニ・ワックスマンが監督であるが、今回はセガールを出しゃばらせずに自身の美学に忠実なアクション映画をやり切ったという印象がある。

ワックスマンの美学、すなわち群像アクション。舞台はホテルの一室とか地下通路とかかなりショボいが、そこに様々な思惑を秘めた武装グループをいくつも投入、同時進行させることで一種フーダニット的な趣を添えつつ緊張感を持続、そして一度アクションが始まるや、激しいカットバックで各々のグループのアクションを同時に見せていく。
この爆発力こそワックスマン流群像アクションの最大の魅力だろう。

いかにも胡散臭いホテルのベルマン、どうにも腹の読めない部隊長など脇役のキャラクターも立っている。
あえてセガールを置物とすることでこうしたキャラクターを物語の中で遊ばせ、散漫になりそうなところをセガールの重量いや重力で繋ぎ止めているのだとすれば、ワックスマンは相当な策士だ。さすがゼロ年代セガールを支えた男。そして「クリスマス黙示録」で天海祐希と仕事をした男だ。

面白い映画だった。打率がニコラス・ケイジの生え際レベルにまで低下した現代セガール映画の中では久々のヒットも言えるんじゃないだろうか。
不満点は特にないが、あえて言えばセガールが出ていなければもっと良かった。
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