しゃにむ

ハロルドが笑う その日までのしゃにむのレビュー・感想・評価

4.7
「経験には値段は付けられない」

とっととIKEA

↓あらすじ
ノルウェーで高級家具屋を40年間で営んできた仕事一筋の頑固老人ハロルドは災難続きだった。店の真向かいに北欧最大規模の大手家具店IKEAが開店し店は閉店。献身してきた認知症の妻を亡くす。一人息子を頼れば嫁に追い出される。自暴自棄になったハロルドは全ての元凶であるIKEAの社長カンプラードを誘拐するべくスウェーデンへ。途中で拾ったワケあり少女と共にカンプラードを誘拐。誘拐してみたら意外と良い奴でね…

・感想
店も女房も一気になくしたやけっぱち不良おやじが不幸のドン底で笑うパンクな生き様。全てを失くしてもプライドは失くさないのが人間の面白いところだ。やけっぱち、破れかぶれ、自暴自棄、不幸の底の底に突き抜けると不思議と笑いが込み上げてくる。自分の人生の書き手は相当イカれた奴だろうさ!もう勝手にしやがれ!俺は知らん!誘拐したいがために大企業の社長を誘拐してしまう。身代金目的ではない。謝らせたいだけ。それで何かが解決するわけでもない。前後不覚でめちゃくちゃに突っ走るパンキーなじい様。さてさて、一見プライドなんてとうの昔に捨て去ったように見えるが、吹っ切れて不幸を笑い飛ばす、呆れた胆力は生命力の源だ。わざわざ道化を演じるのは自分の人生を不幸一色で塗り固めないためだ。考え見れば失うばかりが人生だと虚しいではないか。虚無を笑い飛ばす何たるプライドか。全て失っても人間はプライドを失くしたりしない。無様で結構。破れかぶれ。めちゃくちゃ。パンク。堕落するなりに突き抜ければ爽快である。とことん落ちぶれる活力というものは逆に人生をパワフルに生きるに必要不可欠になる。人生の終盤だろうと人間めちゃくちゃ出来てしまう。墜ちよ、生きよ、笑えばいいと思うよ。

・パンク
とことん惨めで痛々しい。仕事一筋40年誇りの結晶とも言える家具屋がIKEA開店わずか6カ月でぺしゃんこにされてしまう。また長年連れ添った最愛の妻は夫を誰だか分からなくなって穢らわしい汚物のように罵って亡くなってしまう。一気に生きる糧を失くす。もはや生きる価値もない。閉店したがらんどうの店にオイルを撒いて焼身自殺を図るが、スプリンクラーが作動して死に損なってしまうめちゃくちゃ惨めだ。神さまとやらは何て悪趣味な奴だ!生きる糧を失くしてもなお生きる拷問を強いるのだから。自暴自棄になると人間は狂気に走る。自分を不幸のドン底に蹴落としたIKEAの社長を誘拐する。謝罪させるまでは死に切れない。物凄く痛々しい。プライドは捨てられないのだ。大切なものを失くしてしまいプライドでやっと立っている。痛々しくて生々しい。人間の皮を引っぺがしたらきっと彼みたいな有り様になるだろう。で、誘拐する場面もめちゃくちゃだ。間違って別人の家に忍び込む。居眠りして老夫婦に鉢合わせた挙句老人ホームから抜け出した徘徊老人と間違われてしまう。惨めさが滲む。仕方なく家を出ると立ちしている社長カンプラードに遭遇、拾う、誘拐完了。なんとまあ、あっさりと誘拐出来てしまうと拍子抜け。更に話してみて拍子抜け。強欲傲慢な奴だという先入観が馬鹿みたいに思える人物だ。渾身の力を込めてスイングしたら癌末期のハエが飛んできて空振ったような拍子抜け。きっと空振ったから面白いのだ。くっくっとこみ上げてくる笑い。まあホントくそみたいな人生だけれど笑い飛ばせる馬鹿馬鹿しさに満ちているから救われるよ。笑い飛ばせばいい。
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