キンキン

All Tomorrow's Parties(原題)のキンキンのレビュー・感想・評価

All Tomorrow's Parties(原題)(2009年製作の映画)
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私がライブ映像の撮影をするきっかけにもなり、製作する側の視点も初めて気にかけるようになった大好きな音楽フェス・ドキュメンタリー映画!DVDメニューからPlayを選択後に「Please Adjust The Volume On Your Television To It's Highest Setting.」とテロップが出るので、本作を見る時は大音量にして観賞するように心掛けている。

毎回アーティスト達の楽曲から登場するまでの持って行き方が、ジワジワと高揚感を上げてくれるからだ。1発目のBattlesからタイトルテロップまでの流れは、何度見ても痺れる!今見ると、タイヨンダイ・ブラクストンがいるのはファンにとっては堪らないだろう。

ウッドストック、グラストンベリー、フジロックとフェスのドキュメンタリーは数多くあるが、私はこの映画を何回も見てしまう。何故か?考えた結論は「ライブ映像以外のライブの見せ方」と言う逆撫でするような演出なのかもしれない。ライブとは全く関係ないカットを入れる事で想像と妄想が生まれ、その現場に居ない穴埋めを脳が描いていく。飽きっぽい私はこの錯覚させるような感覚が好きで、映像として見ている分その現場と同じ興奮・感動を同じように味わうのは不可能。だから、頭の中で近づけようとするのだ。その行為が、ライブ映像じゃないのに面白いって印象が強く残るんですね。音楽ドキュメンタリー、ライブDVDが苦手な自分にとっては本作に度肝抜かれたのです。

2000年代後半、Youtubeの発展により音楽を動画として見ることが簡単となった。個人が携帯でカメラを撮れるようになった今、報道と言う視点ではなく一般人が撮影した主観の映像も本作には沢山含まれています。画質、音質もバラバラですが、フェスに来ているお客さんの視点があることで楽しい雰囲気とか伝わって来るんですよね。「ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国」みたいな。そういった素材の協力もあるから、監督名は「All Tomorrow's People」となっているのだろう。

だが、気になるのはこの10年間の映像をたった90分以下に凝縮したのは一体誰なのか?それは、ジョナサン・カウエットである。11歳から31歳までの20年間に自身が録りためた映像等を駆使して制作したセルフ・ドキュメンタリー「ターネーション」の監督である。なるほどな。きっと、何十もの映像を見るのに精神削りながらも、ライブ映像を乱雑で贅沢な編集は至福だったのではないだろうか。

そして、本作に大きな貢献を与えている人物を特筆しておきたい。映像作家、ヴィンセント・ムーンである。街中で撮影したミュージックビデオの映像配信シリーズ「A TAKE AWAY SHOWS」の創始者。このシリーズは、街中にも関わらず生活音と一緒にアーティスト達の演奏が生音でしっかりと収められている。一番有名なのは、Arcade Fireがエレベーターで演奏しているやつだろうか。映画の中では、浜辺や芝生といったアンプラグドな状態でのライブシーンもあるのだが、音はしっかりしている。一体どうやって撮影しているのか?ATPは宿つきでスポンサー無し。そして、他のフェスと差別化を図るとしたら、レジャー感覚で外のライブも楽しめるところだろう。なので、ヴィンセント・ムーンの様に野外で撮影している功績はデカい。ちなみに、彼のサイトでは「FROM ATP」と題して、ATPを観客側から撮影したシリーズの映像があります。こちらも、オススメですよ。

苦点を上げるとしたら、オーディオコメンタリーに日本語字幕が付いてない事だろうか。一度で良いから本作を爆音上映で見てみたい。バウスシアターが無くなった今、渋谷WWWでやってくんないかなー?


余談だが、09年発売当時「ATP、日本でもやってくれないかなー?」と思っていたら、11年に前菜となるI'LL BE YOUR MIRRORが新木場スタジオコーストで行われました。ただ、その後東日本大震災があり忘れ去られた伝説的なイベント。映画程の自由な感じでもなく、機材トラブルもあって散々だったのですが、この時に見たGodspeed
You!Black Emperorが、私のこの世で一番好きなバンドとなるきっかけになりました。

その後、2回目の開催も予定されていたのですが中止。それ以降日本での音沙汰無いです‥また、行きたい。
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