マヒロ

ウィッチのマヒロのレビュー・感想・評価

ウィッチ(2015年製作の映画)
4.5
信心深いキリスト教徒である父が教会のやり方を否定したことをきっかけにニューイングランドの町を追われた一家が、新たに森に囲まれた小さな牧場で暮らすこととなるが、そこで末の赤ん坊が忽然と姿を消し…というお話。

テーマの一つが「神の不在」だからか、観ていてベルイマンの映画をかなり思い出した。
そもそもの根源である父は祈りを捧げることでしか解決を図ろうとせず、事態は悪い方向に転がるばかり。家族の間でも、誰かが魔女と契約することで悪い出来事を引き起こしているのでは…と疑心暗鬼になっていく。宗教を信仰する人に対するこの冷たく見据えるような視点は、前述のベルイマンでも『処女の泉』『狼の時刻』なんかの雰囲気に似ているかも。
生活の中に挟まれる生理的嫌悪感を抱くようなイメージが、明言こそされないもののひび割れていく家族の仲に徐々に侵入してくる悪魔的存在を示唆するようなやり方も上手いなと思った。

おっかない見た目と声に反して劇中一番の無能さを誇る父親に、『スプリット』に続き特徴的な容姿で存在感抜群な主演のアーニャ・テイラー=ジョイも印象強いけど、一家の長男として奮闘する弟君がなかなか良かった。姉の谷間をなんとかチラ見しようとする思春期丸出しの健気さもあり、かと思えば食い扶持を減らすために奉公に行かされそうな姉のために人肌脱いで狩りに出かける男気もありと好感持てる。
正直もう彼が主人公でも良いんじゃないかという気もしてたんだけど、最後の最後に女性が主人公に据えられている意味がちゃんとあることがなんとなく分かってくる。要するにこれはかなりひねくれてはいるものの「女性の解放」の物語でもあって、彼女が身体を締め付けていたコルセットを取り外してからラストまでの一連の流れはある種の邪悪な爽やかさすら感じられるもので、結構グッときた。

真意は分からないけど、原題が『witch』ではなく『vvitch』なのもなんとも皮肉っぽくて良いんだな。

(2018.36)
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