ベルサイユ製麺

ウィッチのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ウィッチ(2015年製作の映画)
3.9
いっそ住みついてしまいたいくらい大好きなツタヤの店内にも、滅多に脚を踏み入れることのない一角があります。青い暖簾の奥の事ではありません!ホラ〜コ〜ナ〜。もう単純に怖いからです。怖いのですが、まれに「これをホラーに分類するの?」っていう紛れ込みタイトルがあるので定期的にチェックします。ああ怖い。背表紙の文字列が怖い。ジャケットが黒っぽくて赤い字がタラーっとなってて怖い。怖い、怖い、怖い…の中で目に付いたのがこの作品のジャケットです。ゴシック調乙女感デザイン。可愛い女の子。サンダンス監督賞。そんなに怖さを前面に押し出してないし、存外に良いかもしらん。借〜りよ。

ああ、嫌だ。
17世紀、ニューイングランド。超ハードコアなクリスチャンの父ちゃんは生ぬるい教区を離れ、家族(妻・娘←主人公トマシン・の弟・の下の男女の双子・の下の赤ちゃん)を引き連れ、陰鬱で深い森の側の、超侘しい土地で度を超えた丁寧な暮らしを始めます。
超貧しいながらも楽しい我が家、な生活はしかし赤ちゃんの連れ去り事件により一気に様相を変えます。事件発生時に赤ちゃんの世話をしていたトマシンは家族の中で疎まれる様になり、家族は疑心暗鬼のギスギスムードに…。家族の信仰に紛れは無いか? 娘は魔女なのか? お父さん、口だけ達者だけど正直『サバイバルファミリー』の小日向文世といい勝負なのでは? 私、主人公なのはいいけどこんな辛気臭い役なのは、上白石萌音ラインの薄幸な雰囲気のせいなの?
…そして、更にトマシンの弟も行方不明になった事をキッカケに、物語は一気に不穏な方向に進んでいくのです。
他のレビュアーの方々のストーリー説明が簡潔で分かりやすくて羨ましかったので、自分はちょっと砕けた感じにしてみました。

怖い!…でいいのかな?これ。陰鬱なムードに不吉なイメージ。綱渡りの日常と背中合わせの暗闇。空気感に完全に呑まれてしまって、徐々に呼吸が浅くなるのを感じます…。一般的なホラー映画であれば、お膳立ては整ったとばかりに、あとはドーン!と派手で恐ろしいシーンで昇天…という流れだと思うのですが、今作は些か様子が違います。ストーリーはじわりじわりと陰惨な方向に進みつつも、「さあ、怖がれ」とか「ビックリしただろ!」みたいな意図があまり伝わってきません。流行りのPOVみたいのも無し。ひたすら淡々と、魔女の齎す厄災と混乱を描写する様は、まるで記録映画。
ホラー映画!…でいいのかな?これ。
例えば“魔女”をお題目に観客の感情を弄ぶ、みたいのがホラー映画の理想の形態の一つだとすれば、今作は監督がどうしても描かざるを得なかった“魔女”というお題目が、止むを得ずホラー的なテクスチャーを纏ってしまった、かのように見えます。まるで魔女の存在に魅入られた監督が、その愛を示すために出来る限り資料や伝承に忠実にその姿を描かされてしまったという風で、結果その事こそが“魔女という現象”の本質なのでは無いかしら?とすら感じます。作品中、確かに魔女は姿を見せますが、人々が感じているそれは、あくまで頭の中に存在する畏れの現れに思えました。故・水木しげる先生は「妖怪は…光の加減ですね」と申されたそうです!
後半の、限界まで高まった疑念が狂気の如く噴出する阿鼻叫喚の図は、まさしく魔女が降臨するのに相応しい禍々しさです。演者達の負担も相当なものだったでしょう。(ケイレブ役の子よ‼︎)素晴らしい。魔女達の営みは怪しくも魅力的に輝き、敬虔な信仰を持つと自認する人々ほど危うく思えます。お父ちゃんの終盤のヤベー人感は、直視するのが躊躇われる程でしたね…。
当時の生活を覗き見ている様な気分にさせられる、現実味のある日常描写。統一感が有り、質素ながら気高さを漂わせる衣装。淡い日と火の光で照らされ、まるでマノエル・ド・オリヴェイラの作品の様に深く刻まれる明暗。美しい。この題材に対する監督の深い愛を感じさせます。そして、次回作『the lighthouse』、主演ウィレム・デフォー。気になります!
感想書きにくいなぁ、なんて思ってたのですが、質は兎も角こんなにダラダラと長く書いてしまったのは、要はよっぽど気に入ってしまっているという事でしょうね。もはや日本版ジャケットのブルボンのお菓子の名前の書体みたいなロゴデザインすら愛おしく思えます。
因みに、ホルモン大盤振る舞いなので、ドクロメーターは2.5ドクロです!

…それにしても、ツタヤの、あの暖簾の奥…。何やら怪しげな瘴気が漂ってきます。あの奥には何が潜むのか?まさか魔女⁇ 吸い込まれては一向に出てこない男達。彼らの無事なのか?うぅ、気になる…。