ぺむぺる

ウィッチのぺむぺるのレビュー・感想・評価

ウィッチ(2015年製作の映画)
3.0
大草原の小さな家 meets ホラー。無知蒙昧なアメリカの開拓時代、さまざまな困難に襲われた一家が狂信と疑心暗鬼の末に崩壊していく。多くの人がホラー映画に求めるであろう恐怖やスリルの快感には乏しいものの、どこか詩的な趣のある不思議な魅力をたたえた作品。そこには長い時間かけて語り継がれてきたフォークロアにも似た素朴な味わいがある。

ここでついフォークロアなる単語を引き合いに出してしまったのは、「むかしむかし」の出だしがいかにも似合いそうな時代設定のせいもあるかと思う。ニューイングランドの寒々とした景色、厳格なキリスト教思想、困窮を極める家族の生活様式…、これらの歴史的現実がことさらよく作り込まれていて、そこで繰り広げられる出来事を、その本物らしさに驚嘆しながら、じっと息をつめて見つめた。古英語に拠ったという原語の響きを味わえないのがひどく残念ではあるものの、それでもその完全無欠の世界観がわたしなどには十分迫真性を伴って感じられたのである。

ただし、それは過去の再現というより再構築に近く、事物のエッセンスのみを取り出して作り上げられた一種箱庭的な世界観であり、かえって現実感を欠いている。ここでは、超自然的な魔女の存在も世界の一部として調和しているようにさえ見えるのだ。この、〈限りなく写実的でありながら現実的ではない〉という奇妙なズレが、詩情を掻き立てると同時に、現実とは異なる異世界の雰囲気を漂わせ、うすら寒い感覚を与えてくる。

ストーリーに目を向ければ、これもまさにフォークロア的・昔話的といえるシンプルな筋立てで、とある少女の不幸と再生の物語である。〈闇に見出す救い〉に現代風のひねりが見えるものの、安っぽいブラックジョークに堕してない点が面白い。本作の主題はあくまで少女の人としての一生を描くことであり、その真摯な視線には教訓や皮肉めいた見方をはねのけてしまうだけのすごみがある。宗教への過信・盲信、集団からの孤立、家族の呪縛、これらの要素に現実的なイシューをにおわせつつも、この閉じられた世界で起こる出来事は現実の写し鏡などでは決してなく、我々の住む世界になんら影響を与えるものではないのだ。

そんなところからも、わたしは本作を〈ありえたかもしれない彼方の世界のおとぎ話〉として受け取ってしまうのである。
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