ふき

10 クローバーフィールド・レーンのふきのレビュー・感想・評価

3.5
目覚めたらシェルターにいた女性が、事態の全貌を把握すべく脱出を目指すサスペンス作品。

J・J・エイブラムス監督の問題作『クローバーフィールド』と同じタイトルを冠するが、SFパニックホラーの前作と違い、本作は『ソウ』シリーズなどに代表される「ソリッド・シチュエーション・スリラー」の様相を呈している。
シェルターの主である元軍人の初老の男性、ジョン・グッドマン氏演じるハワードは、「アメリカが攻撃された」「屋外はガスが蔓延していて危険」と説明するが、閉鎖空間ゆえに事態の全貌が見えてこない。本当に異常事態が起こっているのか、錯乱した男に捕まっただけなのか分からない。

というセットアップから想像できるだろうが、基本は「どうせこのハワードがサイコ野郎なんだろ?」と疑惑を抱き続けるタイプの、言ってしまえばよくあるサスペンスだ。だが次々に明らかになる“事実”の出し方が巧みで、お話が進んでも「いやまだそうとは限らないぞ?」「いやまだ安心できないぞ?」と警戒心が消えない。
“監禁”されている側のメアリー・エリザベス・ウィンステッド氏演じるミシェルとジョン・ギャラガーJr氏演じるエメットの二人も、大芝居から小さい振り幅の演技までどれも的確で、サスペンスとしての出来は水準以上だ。
さらに本作は“あの”『クローバーフィールド』の続編でもあるので、「こいつはまあサイコなんだろうけど……いやでも前作がアレだし……いやいや……」とメタフィクショナルな深読みまでさせられてしまう。そういう意味では、続編であることをサスペンスに活かした面白い試みだと言える。

と、全体的には悪くない出来なのだが、最終的には首をひねらざるを得なかった。
まず『クローバーフィールド』を冠している割りに、前作にあった面白み、つまり「『クローバーフィールド』の続編だから」と見にくる観客の期待を満たす要素が足りない。ソリッド・シチュエーションをしたいのは分かるが、お話の八割方は前作と“全く”関係がない。匂わせる程度さえないので、これでは満足できない。
かといって前作から独立した一作品と考えると、今度はお話の核である元軍人ハワードの扱いがネックだ。第二幕が終わっていよいよクライマックス、ジョン・グッドマン氏の怪演もハワードの謎も佳境に! という段階で突然『クローバーフィールド』的展開が始まり、ハワードが退場したままお話が終わってしまうのだ。

かように本作は、「田舎に行ったらおっさんの家に閉じ込められました」サスペンスと、『クローバーフィールド』らしい世界設定を、三:一でフランケンシュタインの怪物のように繋げただけだ。真ん中で別の展開が始まりつつも当初のお話に収斂していく『ベイマックス』や、最後の最後で世界が広がることで呆然となる『キューブ』などと比べると、作りの甘さは明白だろう。
他にも、密室で鎖に繋がれたって展開は「『ソウ』っぽい!」以上の意味がないとか、お前服飾デザイナー志望の割りに服のデザインが……とか、『プリティ・イン・ピンク』ネタをやるなら登場人物をもう一人出せばとか、あるにはあるが些細なことか。
ふき

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