今回の特集上映の作品では最もファスビンダーらしいなと思うけど監督はダニエル・シュミット。とにかくイングリット・カーフェンが魅力的で、全身是退廃といわんばかりの佇まいはさすが。カーフェンの人形みたいな見開いた瞳は『ラ・パロマ』での棺の中の彼女を思い出す。
レナート・ベルタのカメラ、今回のポスターにもなっているカーフェンとヒモ役のファスビンダーが住む部屋のシーンやシュミットらしく人々が幽霊みたいに背景を行ったり来たりするダンスホールのシーンの撮影がとても好かった。ところどころ画面全体がぼやけてるときがあったが、16ミリからレストアしたらしく(ドイツ語の説明でよくわからず)マスターの状態がどうにもならなかったのだろう。ほとんどの作品が日本で観られなくなってるダニエル・シュミットが観られるだけでもうれしい。
何年か前に本作の元の戯曲『ゴミ、都市そして死』をケラリーノ・サンドロヴィッチ演出 緒川たまき主演の舞台で観てた。しかし内容ほぼ覚えてなかった。
本作はなかなか印象的な長台詞が多く、ロケで「都市」を示すよりも装置で空間を作り込んで見立てで表すようなやり方のほうが合ってる気がしたので、やっぱり演劇向きのホンなのかもしれない。物語の外のメタ構造を示すような台詞もある。反ユダヤ的と批判されたらしいが「金持ちユダヤ人」やファシズム肯定は敢えての挑発だろう。ヒモ役の徹底した貶められぶりをファスビンダーが演じるの自虐にもほどがある。終盤突然に『あやつり糸の世界』みたいなSFちっくな舞台になるのも唐突で、これも演劇の方がしっくりきたのかなと思った。