いかやき

シング・ストリート 未来へのうたのいかやきのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

「兄貴最高だったよな」と言われたら、正直「全くだ」以外に返す言葉はない。諸手を挙げて降参するしかない。グッドウィルハンティングのベンアフレックが最高なのと同じくらい、あの兄貴は最高だ。間違いない。ただ、ここでは、やはり、兄貴は最高だったけど…という話をしたい。


はじめに断っておくと、以下の文章はシングストリートのネタバレはもちろん、なぜだか漫画「バクマン」のネタバレを含んでいる。そしてうんざりするほど長い。注意。

本作は、基本的にとても少年マンガ的だったように思う。例えば、主人公が初めて登校するシーン。喧嘩が勃発している中を、生徒たちににらまれながら主人公が歩く様子がスローで流れる。少年マンガ的な分かりやすさ重視の演出だ。
あるいは、エイモンを誘うところ。母親に対しての「タバコ吸ってないよ」の次のカットでタバコを吸うエイモン。極めてわかりやすい、コテコテのボケだ。
そして終盤、バリーへの「喧嘩の強い奴が必要なんだ」は、敵だった奴がいいところで味方になる王道胸熱展開と言えるだろう。

例を挙げればきりがないが、本作はこういったマンガ的演出・展開が数多く見られる。普段の好みを考えれば当然なのだが、僕はこの点について全く否定的ではない。むしろアツい展開に心躍った。


さて、ここで思い出すのは、極めて意識的に古典的少年マンガの王道テクニックを取り入れることで、(特に中盤に)激アツ展開を見せた「バクマン」であろう。

なぜここでかなり強引に「バクマン」を引き合いに出したかというと、僕の本作への不満点が「バクマン」への不満点と重なるからだ。それはラスト、すなわちクライマックスの後である。

「バクマン」では、「主人公のマンガのアニメ化」というクライマックス以降、話は完全に真城と亜豆が結婚できるかという一点に集中してしまう。あんなにアツくマンガを描いてきたのに、である。結局かわいい女の子とくっつけるかどうかが一番重要だと言わんばかりの展開に怒りすら覚える。せっかく王道少年マンガへのオマージュでやってきたのだから、最後は無理にでも全員集合して一つの雑誌にマンガを描くというようなアツい大団円で終わるべきだったと強く思っている。

同じことを、本作にも感じた。つまり、あれだけアツく音楽をやっていたのに、最後はバンドメンバーを置いてかわいい女の子と二人で行ってしまうというラストである。残された者たちは、彼らの無謀な挑戦の成功をただ祈り待つことしかできないではないか(やっと居場所を見つけたと思ったであろうバリーは特にかわいそう)。やはり、脚本上の無理を押してでも、全員で立ち向かうアツいラストにして欲しかったと僕は思う。


以上が僕の、本作を少年マンガ的胸アツ映画として見たときの考えである。もちろん映画的なラストという観点では、違った意見があるだろう。それはそうなんだけれど、僕は前半のマンガ的なところにワクワクしたので、こういう結果になったというわけです。

念のため最後にもう一度言っておくと、兄貴はマジで最高。