岡田拓朗

シング・ストリート 未来へのうたの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

3.9
シングストリート 未来へのうた(Sing Street)

キャッチコピー
「君といれば、無敵。」
「君の夢は、僕の夢になった。」

あまり鑑賞しないジャンルですが、満を持して鑑賞。

決してキラキラしてるだけの青春映画ではなく、環境のせいにするのでなく自分で現状を変えるために動き、個性を突き通そうとして色んな人に抗いながら、ときに痛々しさがあることも厭わずに、ただただ好きなことを好きなファッションで好きな人のために本気で突き通すことで、徐々に前進していき、憧れの地への一歩を踏み出す映画で、心動かされるものがあった。

大不況のダブリン。
父の失業もあり、公立の荒れた学校に転校することになり、家では両親が喧嘩をしていて家庭崩壊寸前。
まさにどん底からスタートした主人公のコナー。
もし何もしなければそのままの生活が、ただただ続いていただけかもしれない。

音楽がとても好きな兄と一緒に、ロンドンのMVを見たり、音楽を聴いているときが幸せで、音楽と兄こそが彼の心の拠り所となっていた。

いきなりの転校で周りは以前と違って荒れている学生が多く、居づらさを感じていたコナーだったが、街で見かけた大人びた美しさとオーラを放つラフィナに一目惚れし、何を思ったか「僕のバンドのPVに出ない?」と口走ってしまう。
このとき、なぜこの言葉が出たのかはわからなかったが、それもまた洋画っぽいバンドを始めるおしゃれなきっかけ作りだなと演出がさすがだなと。
日本だとこのセンスは作れないと思う。笑

そのお誘いがきっかけとなりバンドを急いで組むコナー。
でもそれが彼が好きなこと、夢を追うことに対しての行動の第一歩となったことは間違いない。
何にせよ、環境の変化の中で、鬱々とした日々を変えるきっかけが何であれ、変え方が何であれ、自分次第で景色は変えられることがまずは伝えられている。

バンドを作り動かし、個性を学校にも持っていき、周りからは痛々しく見られ、教師に打ちひしがれようとしているけど、決して自分たちを崩さない各位。
それをダサいと思うか、かっこいいと思うか、は本当に受け手次第。

もしかしたら行動も努力も何もせずに、この状態で抗っていたとしたらダサく見えたかもしれないが、彼らにはその不完全さから来るダサさは少しありつつも、どこか羨ましくもあり、かっこよさもあった。
痛々しさを突き抜けることでしか見られない景色と叶えられない夢があることを、余すことなく見せつけてくれた。

ラストは、馬鹿にしていた同級生を含めたみんなが一体となり、ただただ音楽を楽しむ空間を作り、そこに反抗心を音楽にすることで、敵意むき出しだった教師を比喩的に打ちのめしていき、それが超絶に爽快。

今作は、間違いなく劇中歌が全てかっこよくてイケてるからこそ成し遂げられるし、作ることができている世界観。
本当に劇中歌が全部よかった!!
今作は劇中歌がイケてなかったら本当に映画として成り立たたないくらい、それが相乗効果を発揮していて、むしろキャストを食うくらいの勢いだった。

コナーは、転校することで、絶望が待っているかと思いきや、予想外にたくさんの素敵な人に会えて、素敵な経験ができ、また夢が一つ叶って、また大きい夢を叶えるための一歩を踏み出していく。

あのとき動かなかったら決して変わることがなかった生活は一歩を踏み出すことで確かに変わった。

様々な大切なことに改めて気づかせてくれる、痛々しさと羨ましさとかっこよさが詰まった今まであまり観たことのない青春映画。
避けがちなこのジャンルも鑑賞してみてよかったなーと思いました。

P.S.
様々なバンドネームが出てたけど、80年代UKロックは、クラッシュ(The Clash)とピストルズ(Sex Pistols)しか知らなかった。
冒頭での「I Fought the Low」はめっちゃテンション上がった!
ベースの子は明らかにレッチリのベーシスト・フリーを意識してたんじゃないかと思わざるを得ないくらい彷彿とした。笑
アイルランドならではの情景もとても美しく、物語を後押ししてた。
岡田拓朗

岡田拓朗