あんがすざろっく

シング・ストリート 未来へのうたのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

4.5
ロックをやるなら、うまくなろうとするな。

一目惚れした女の子に話しかけたくて、思わず口が滑ってしまう
「僕のバンドのMVに出ない?」
しかしバンドはおろか、音楽もやったことがない少年は慌ててバンドメンバーを探すことに。
こうして、彼らの青春が動き出す…。

女の子と近づきたくて、バンドを始めるなんて。
だけどいいじゃない、それがロックだもん。
青春だもん。

なんて瑞々しい青春映画なんだろう。
これ大好きですねぇ。
劇場で観てたら、その年のベスト3には入れてましたね。

ジョン・カーニーの作品、気にはなってたんですけど、実は初鑑賞でして。
これは「ONCE〜」も「はじまりのうた」も早くチェックしなけりゃいかんですね。

80年代のアイルランド、ダブリンを舞台に、当時のポップミュージックをフィーチャリングして展開するストーリー。

って、青春映画で、最初からモーターヘッドって‼️
ちょっと想像と違って面食らいました(笑)。
まさかハードロックの道に進むのか?

主人公のコナー・ローラーは家庭の事情から、通い慣れた高校からの転校を余儀なくされ、新しい学校で高圧的な校長やクラスメイトからのいじめと向き合う羽目に。
大人しいコナーは大した反抗もできず、家に帰れば両親は喧嘩ばかり。
唯一の楽しみは、大好きな兄と見る流行りのロックバンドのMV。
ある日、学校の帰り道に、いつも見かける大人っぽい女の子に一目惚れ。
思わず彼女に話しかけ、出てきた言葉が件の一言。

その彼女、ラフィーナもコナーの話に興味を持ち、MVへの出演を快諾。
コナーはいよいよ大慌て。
仲良くなったダーレンの助けを借り、急ぎバンドのメンバーを探す。
音楽の才能と知識を買われたエイモン(ウサギ大好き)を筆頭に集まったメンバー。
何とか形になったバンドは、彼らの通うシング高校を文字って「シングストリート」と名付けられる。

バンドが出来上がるまでがトントン拍子なのと、コナーが実は歌が上手くていきなりバンド演奏が成立してしまうところが、ちょっと出来過ぎじゃない?と思ってしまいましたが、音楽が素晴らしいので良しとしましょうよ。
オリジナルの曲もいいし、流れるヒット曲も耳馴染みのあるものばかり。
80年代ポップスのキラキラした感じが溢れてます。
悲しみの中の喜びでキュアーとは、言い得てますね。

アイルランドというだけあって、シングストリートにもU2のイメージがあります。

しかし、アイルランドって80年代まで、法律で離婚禁止だったんですね‼︎ビックリしました。
だからいくら夫婦仲が悪くなっても、一緒にいなければならない。
これは凄いことですよ。
きっと両親の喧嘩が絶えない家庭もあったんじゃないかな…。
一時期IRAを描いた作品を見続けていた頃があったんですが、アイルランドって、こういう側面もあったんですね。

キャストですが、主人公のコナーを演じたのがオーディションで抜擢されたフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。
歌上手すぎでしょ‼︎
なかなかイケメンだし、メイクしたら余計にイケメンでしょ‼︎
う〜ん、もうちょいヘタレ感があっても良かった気もしますけど、初出演で主役を張れるというのは、見事なものです。

ラフィーナ役は、ルーシー・ボイントン。
「ボヘミアン・ラプソディ」でメアリーを演じた彼女です。10代には見えなかったかな…。ミステリアスな感じは素晴らしかったです。

エイモンを演じたマーク・マッケンナも良かったですね。
陰影というか、佇まいが何だか本当にミュージシャンになりそう。
コナーを影で支える、バンドの屋台骨を好演。
ウサギが好きというギャップも、女性は弱いんでしょうねぇ。

しかし一番光っていたのは、コナーの兄ブレンダンを演じたジャック・レイナーです。
大学を中退し、家に引き篭もっているグータラな兄ちゃんですが、音楽への愛情が溢れてます。
最初こそデュラン・デュランのコピーをしていたコナー達ですが、ブレンダンは他人の曲で女の子を口説くな、と弟を叱咤激励。
音楽を通して、コナーに大きな影響を与えていきます。

ロックをやるなら覚悟を持て‼︎
ブレンダンの授業が始まります。
あ〜、こんな授業なら僕も受けたい‼︎
「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラックとダブります。
または「あの頃ペニー・レインと」のウィリアムとレスター・バンクスの関係。

その兄ちゃんも、実は色々と悩んでいて、彼の欝屈した思いが爆発するシーンも良いです。
それでも兄ちゃんは最後をしっかり締めてくれます‼︎


作中、「BTTF」宜しくのパーティシーンがありますが、こちらも遊び心があって好感が持てました。

音楽ものが好きなので、昨年公開した「イエスタデイ」も良かったんですが、こちらを心底好きになれなかったのは、最終的には主人公がハッピーエンドになればOK🙆‍♂️みたいな落とし込みで、ちょっと引いてしまいました。
そこに行き着くまでは好きだったんですよ。

本作は、未来に何が待ち受けているかが、観客の想像に委ねられています。
バンドとしての成功ではなく、何の当てもない未来への船出が、余韻を残していていいですね。
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