<概説>
旅行先で出会ったミステリアスな女に心惹かれ、男は彷徨を続ける。虚構と現実が混濁する数々の証言から、彼がいたる女の真実はどこなのか。『去年マリエンバードで』のロブ=グリエが完成させた奇妙なロマンス。
<概説>
とにかく視線が合わない。
女の痕跡は二転三転して焦点が絞れませんし、虚実の境界もあちらこちらに移動する。映像の女が不自然に観客を見つめたかと思えば、今度は役者同士の視点がちぐはぐになります。
しっかり見れば見るほどに違和感が発見されて、この不自然を補完しないままでいるのが非常に楽しい。
特に中盤におけるダンサーの一幕はたまらない。
ダンサーに視点が集中する映像の頭。彼女が腕を持ち上げた途端に背後の陰影にも意識が向かいます。ここでダンサーの三次元映像としての整合性が整ってほっと一安心。
したと思ったら!
まさかそこで空白だった背景空間に観客がいたと不自然を提示するんですから鳥肌もの。加えてダンサーと観客と男女、その全員が一方的な視線を壁に向けて送っているんですから。蠱惑的で素晴らしいシーンでした。
とはいえ物語の細部までは作中説明しないので、一目瞭然な作品が好きな方にはオススメできないですね。『快楽の漸進的横滑り』にしてもこの御仁は非常にピーキーな作品を作られます。