こたつむり

西部戦線1953のこたつむりのレビュー・感想・評価

西部戦線1953(2015年製作の映画)
4.4
♪ 自由がすべてと教えてくれ 偽善者
  自由がすべてと信じて唱えてやられた

人間が二人いれば戦争ができる。
…なんて何処かの偉い人が言っていましたが、その言葉を具現化したような物語。しかも、コメディ。韓国と北朝鮮の兵士が対峙する様を軽妙な筆致で描いています。

何よりも、主人公たちは真面目なのが秀逸。
一生懸命なのに空回りしてしまうから笑えるのです。その様子は、まるで三谷幸喜さんが執筆した脚本(初期の『ラヂオの時間』とか)のようでした。

特に“牛”の使い方が見事でしたね。
緊迫したやり取りの中で弛緩させる存在。
ひたすらに映すのではなく、登場する場面を絞ったところにセンスを感じました。

でも、悲しいかな。
これは韓国だから編むことができる物語。
日本で同じものを作るのは難しい…と見せつけられた気がしました。

何しろ、題材は朝鮮戦争。
現在は休戦状態なのに、それを“笑う”ことによって真正面から捉える…なんて当事者じゃなければ無理な領域です。

しかも、本作では“死”を省略しません。
この落差がスゴイのです。確かに悲劇と喜劇は表裏一体。それが秀逸なコメディの基本…とは言え、そこに踏み込むには覚悟が必要です。温い気持ちでは描けません。

だから、日本人では無理なのです。
仮に描いたとしても…世論が許さないでしょう。「死を笑いに使うとは何事か」なんて批判が飛び交うのが容易に想像できます。あー。本質はそこじゃないのにねえ…。

それって逆から見れば日本が平和な証拠。
それはそれで良いことなんですけどね。ぬるぬるとした環境で腐らないように…自戒を忘れてはいけないと思いました。アイデンティティを確認するために他者を攻撃している場合じゃないです。

まあ、そんなわけで。
不謹慎だから笑いは際立つ…なんて言葉を思い出した秀逸なコメディ。勿論、苛烈で熾烈で着地点が読めない“韓国ならでは”の展開もありますので…臨むにも覚悟が必要ですけどね。
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