湯っ子

パターソンの湯っ子のレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
3.3
パターソンという町に住むパターソン。
職業はバスの運転手だけど、彼は詩人でもある。

たった数行の言葉を綴るのに、詩人はこうして心の中でそれを反芻し、単語を吟味し、まさに言葉を編んで詩に作り上げるのかと思った。

パターソンは誠実で無欲で慈愛に満ちていて、何より妻を心から愛している。まるでお坊さんみたいだし、映画を観ていると禅という言葉が浮かんでくるので、「パターソン 禅」とネット検索してみたら、やはり同じように感じる人がいたようだ。
永瀬正敏との会話も、なんだか禅問答みたいだし…禅とは何ぞや、ということはよくわかってないので、あくまでイメージですが。

とんがっていない、控えめでまあるいスタイリッシュさ。
彼の住む家のように、映画を観ている間じゅう、居心地の良さを感じる。

彼の妻ローラは、男性からしたら理想の女性じゃないかと思う。
美しく、いつでも機嫌が良くて、夫の才能を心から信じている。たまにアルバイトで小銭を稼いでいるが、基本的には家にいる。
それでいて、夫に精神的に依存することはなく、自分の世界で勝手に遊んでいてくれる。
パターソンが詩にしているように、「君のような人はいない」…うん、たぶん本当にいないよね!(笑)

そして、パターソンのような人も会ったことない。物静かで優しく、誰に対しても敬意を払い、突発的なトラブルにも冷静に対応する。
妻のヘンテコな創作料理も文句も言わず食べて、
「夕食をありがとう」って毎回言う。バーで飲むお酒も1杯だけ。妻を否定する発言は一切せず、美しい詩を読んでくれる。

普通の人、普通の夫婦に見せかけて、誰もが羨む理想のカップルだ。
素敵な2人に素敵なインテリア、ぶちゃかわなわんこマーヴィン。おしゃれが過ぎる。
映画の中で描かれるのが、何気ない日常なのに、こんなに気持ち良く観ていられるのは、たぶん、あるひとつの理想的な世界だからだろう。

おしゃれで美しくて知的で上品。しかも、それがとんがっていなくて押し付けがましくない。
とても絶妙なバランスを保っているからこそ、この映画が愛されるのだと思う。
湯っ子

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