MasaichiYaguchi

パターソンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.0
ジム・ジャームッシュ監督の「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」以来4年振りの最新作は、ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手パターソンの7日間を描いている。
自分が住む都市と同じ名前の男の毎日は代わり映えしないようでいて微妙に違う。
ジム・ジャームッシュ監督は、そのちょっとした違いの妙を、時にユーモアを交え、詩的に美しく映像で捉えていく。
ジム・ジャームッシュ監督作品において文学と音楽は切り離せない。
本作にもカントリーミュージックをはじめとして印象的に音楽が作品を彩っているが、この映画でテーマになっているのは“日常の中にある詩”だと思う。
バス運転手であるパターソンは、愛する妻ローラとお茶目なブルドッグのマーヴィンと過ごす時間や仕事の合間を縫うように秘密のノートに詩を綴っている。
私は詩作はしないが、気の利いたフレーズは日常の何気ない瞬間に浮かぶことが多い。
この作品ではそういった瞬間も含め、アダム・ドライバー演じるパターソンが詩作していくのを、とても効果的に映像化している。
思えば、月曜の朝から始まり、翌週の月曜の朝で終わるブックエンド方式の本作は、作品そのものが一編の詩になっている。
微妙に違うが繰り返されるパターソンの日々は詩のリフレインのようだし、ほぼ毎日のように登場する様々な双子は詩の韻のように思える。
そして仲の良いパターソンとローラ夫妻と対照的なエヴェレットとマリーのカップルが登場して、コントラストを成していたりする。
そして終盤で、あるアクシデントで落ち込むパターソンに対し、パターソン縁の詩人ウィリアム・カルロス・ウィリアムズを切っ掛けにして、彼を慰め、励ます日本人の詩人が登場する。
この詩人を演じているのが、「ミステリー・トレイン」以来27年振りにジム・ジャームッシュ監督作品に出演した永瀬正敏さん。
何処か飄々としてユーモラスな永瀬さんの演技が、その場面に温もりを与えている。
普段何気なく過ごしている日々の中にある美しさ、光や温もりをスケッチ風に描いた本作は、観終わった後にしみじみとした味わいが蘇ってくる。