ちろる

パターソンのちろるのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.1
主人公パターソンはバスの運転手としてささやかで平凡な毎日を大切にかき集めるように彼は「秘密の手帳」に詩を紡いでいる。
創作活動に耽り、手抜きご飯の妻に大丈夫だよと声をかけるパターソン
「何か」になれると信じている妻を労うパターソン
毎朝見た夢を話す妻はパターソンがいつか詩人としてデビューできると信じている。
そんな妻ローラとパターソンは少しだけ凸凹だけど、自分とはちょっと違うタイプのローラを微笑ましく見つめるパターソンの瞳こそが「愛」そのもので、ある意味どんな激しいラブストーリーにも匹敵しない何か凄みを感じてしまうのだ。

何かが起こりそうな予感がしながらもほとんどドラマがないことにこれほど安堵したのは珍しい。
主人公パターソンはジム ジャームッシュ監督お得意のオフビート系の作品の主人公たちを少し遠くから見ていたような本当に普通の人間で、普通の物語では描かれない「間」を見つめて、詩を紡ぐようにこの作品を描いた監督の感性がとても好きだ。

日々侵食するように家中に増える妻の描く「○」はパターソンの終わらない、これからもループする平凡な日常を象徴しているかのようで、正直ゾワっとする。だけどそんな滑稽さも壊れないように、これ以上不幸にも幸せにもならないように・・・。
スマホを持たず、ペンとノートだけで、他人から見たら何も変わらないように見えて少しずつ形を変えていく日々を紡ぐパターソンの姿はいろんなものが削ぎ落とされてとても美しく、自分が汚れてるような気がして恥ずかしくなってしまった。

帰り道、渋谷のスクランブル交差点で集中豪雨に見舞われて、道路にはねつける水飛沫と、水が勢いよく流れる排水溝を見て何か詩を紡げるかと思っていたけど、「臭!」なんとも言えない雨に篭った都会の排水溝からの異臭のせいで何も浮かばないし、いや、そんなこと言い訳にするうは、一生パターソンやウイリアム カール ウイリアムズのような詩人にはなれないのだろう。

ともあれ明日はまた新しいのノートの1ページ。頑張って違う自分変わらなくてもいい。
毎日を今以上に大切に抱きしめて過ごそうと思えた作品に出会えて良かった。

余談ですがマーヴィン役のフレンチブル君、名演技でした。
愛おしくて憎らしくて、ブサイクで最高にキュートで、何気ない日常の映像にクスッと笑いをくれるので犬好きにはたまらないエッセンス。
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