140字プロレス鶴見辰吾ジラ

パターソンの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.5
”あゝ日常”

日々の生活なんて
日が昇って
朝飯食べて
仕事に行って
仕事が終わって
日が沈んで
行きつけの店があって
微睡んで
瞼が重くなって
また日が昇って
また日が沈んで
また日が昇る

僕らは日々の主人公で
毎日のサイクルに
力強いスパイスを望む
望むが欲しくはない
仕事が始まって
仕事が終わって
酒を飲んで
微睡んで
瞼が重くなる

日々にスパイスを求めて
結局は酒で流して
微睡んで
目を閉じたら
また日が昇る

それで美しいし
それで幸せだし
求めないし
欲張らない

あゝ日常に溶けていく
好きなことをしていたい

ある視点で生活を切り取っただけに見える本作に、現在公開中の「ベイビードライバー」や「スパイダーマン ホームカミング」のような私たちの”理想”が輝いている。一見、何の変哲もない寡黙で詩を書くのが好きなバスの運転手に好奇心旺盛で主人公のすべてを認めてくれる笑顔のヒロインがいる。夢のお告げという浮ついた言葉から街中に双子が象徴的に目に止まる描写から、バスの乗客の何気無い会話、ヒロインの奔放な芸術性と確実に互いに認め合い、愛し合い、寄り添っている安心感。行きつけのバーで出会う人々と間の抜けた展開。日が昇って、日が沈むの繰り返しを何度でも待ちわびていると時計の針は上映時間の終わりに近づいている。至高の喜びをファンタジーでない寄り添った景色で味わえる理想の傑作。