まりぃくりすてぃ

パターソンのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
3.9
映画としての決め手を欠いたまま淡々と曜日だけ進み、そのまま終わっちゃうんじゃないか───と危惧してたら、後半とりあえず事件が相次ぐ。

しかし、終盤の滝公園のところ、がっかり。何だこの日本人。期待してたのに。
例えば、キアロスタミ監督のカンヌ受賞作「桜桃の味」で真打ち的な時間帯にひょっこりという感じで登場したお爺さんの、詩藻(しそう)に富んだ重い諭(さと)しと慰めのたたみかけに、世界中が泣かされたよね。あれっぽい素敵な滝公園のシーンであってほしかったんだよ。
日本人だったら、たとえ見かけは“くたびれビジネスマン”タイプであっても、ちょっとした「禅」の心を携えて映画に魔法をかけに来たんじゃなかったの?? それが何よ、無表情なくせに口数がヘンに多くて、“くれ好き”なのにやっぱり硬すぎて……「アハー」って、ユーモアのつもり? 異物感でこっちはニコリともできず。英語の発音がどうかじゃない。永瀬正敏の演技、ダメ。
新たなノートを手渡してくれる役がどうしても必要だったっていうなら、途中の「water falls」の女の子を再登場させた方が可愛くまとまったはずよ。
結局、犬を頑張らせたけども、ラストのラストに向かっては残念な脚本だった。せっかくパターソンという特定の町にとどまらない普遍的な意味・意志・悟りを日常の風景の中に探りきるつもりが、逆にご当地詩人などなどに拘泥することで、精神をパターソンっていう特定の地名の中に再び強く閉じ込めちゃってるんだもの。
地名にしても人名にしても、客にはパターソンなんてそもそもどうだっていいのに。
あとね、読み書きされた個々の詩に魅力がない。翻訳だからとかじゃなく、内容そのものが着眼点とか発想の段階でスカスカ。(スモモを除いて。)私が14才頃に作ってたポエムとあまり変わんないね。ずっと軽視してた「山田かまち」が本当はいかに凄かったかが、改めてわかったよ。ドキリとさせないものを詩とは呼びたくないね。韻の有無? 知らない。(翻訳詩であっても私はずっと前、リルケに泣かされたことがちゃんとあります。訳・富士川英郎。たとえレインコートごしにシャワー浴びたって、温水さえ本物ならば体も心もちゃんとあったまるんだよ永瀬さん!)

そういうわけで、着地に大失敗してる映画だった。雰囲気よかったのに。リア充バクハツ奥さんの糖度には、いやいや参ったな~。“カッコよすぎるわりには現実的かもしんないところが普通に叙情的、なアダムドライバーズcool”には、もちろん私だってぎゅっとチュッとされてみた~い。(でも、映画館で菓子をポリポリする人は嫌い。食べるか映画観るかどっちかにしてよねアダム。。。。)




ついでながら、日本のことだけどね、あるお婆さんが、夫も亡くして独り暮らしで生き甲斐ももうなくて、でもある日息子夫婦に「自分史を書いてみたら?」と勧められ、書き始めたら、あれもこれもと筆が走りに走って名文調、気力も漲り、そのうちに「これが完成したら、コンテストに応募してみようかね。出版したらきっと売れるよ」とまで夢見だした。ところがあんまり夢中になりすぎて、石油ストーブの火をちゃんと見てなくて、火事になって、お婆さんは焼死。原稿も全部焼失しちゃいました。………いや、燃え残りの、小さな紙切れが一つ発見されて、そこには「八十×年間、本当に本当に幸せでした」の文字だけが残ってたんだそうです。
禅、とはまたちょっと違うけど、詩ノートの喪失から思い出した話でした。

こんなのどう? ブルちゃんにああされちゃったものを……掻き集めて夫が手に取った悲しい一片には「ONLY LONELY」の文字。
はぁ~、これだけ残ったって、と溜め息する夫に、妻が超甘々な笑顔で「見て! 綺麗に二行残ってるわ」。彼女がつまんで振る一片の方には、「I LOVE YOU   NOW AND FOREVER」………
ほかの千万語は要らなかったんだね、と二人はぎゅーっと抱き締め合う。反省してブルちゃんはもう邪魔しません。
そして滝の公園に行ってみたら、あの女の子がピンクの表紙の新しいノートを「これ、あたしが手作りしたの。あげる」と差し出す。「もう僕は詩作はしないかもしれないけど、とりあえず、ありがとう。絵でも描こう」とお返しにほっぺへのチューをするパターソン。「僕は、何だか、気づいたみたいなんだ。詩を書いても書かなくても、人生そのものが詩だって」「そうね、人生は駄作のない詩よね」「駄作がない、か……」「そうよ、無駄な言葉さえない。一人一人の人生のすべての瞬間が、すべての日常が、かけがえのない詩の一語一語なんだわ」「若いのに、よくわかってるんだね。素敵だ。誰の人生も駄作じゃない、か。なるほど……」そこへ、あの失恋黒人男が通り掛かり、「やあ、パターソン! いつぞやは心配かけたね」「もう元気なのかい?」「ああ、俺は生まれ変わったんだ。新しいカノができそうだし。胸がでっかいんだぜ」「そうか。よかったよかった(……君はやっぱりマザコンだったんかい)」そして流れる、カントリー歌手ロリー・モーガンが驚きのジョジョとデュエットするバディ・ホリー・カヴァー「WORDS OF LOVE」でエンドロール。(創作ですが。)……永瀬は、あえて登場させるなら、「ジャパンにはハイクという定型詩がありまして」と小難しくも歯切れよく語らせ「振り返り振り返り見る秋の滝」とでも言い残させてもっと謎っぽく&カッコよく去らせましょう。&「ちはやブル神も覗きし言の葉の味はどんだけ君にも幸あれ」

     抱き締めてよ どんな気持ちがしてる?
     愛は真実だと 僕に教えてね
     あの一言が聞きたくてたまんないんだ
     一緒にいると いつもそうだよ
     君が心こめて囁いてくれる愛の言葉
     「あなたを、愛してる」
               (バディ・ホリー 1957年)