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パターソンのKAJI77のレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.2
最新作にゾンビ映画『The Dead Don't Die』も控える、ジム・ジャームッシュ監督×アダム・ドライバーの注目のコンビが贈る作品『パターソン』(2016)を鑑賞しました!

とても詩的で気品溢れる感性と緩やかな文体に定評のあるジム・ジャームッシュ監督。これまで『パーマネント・バケーション』や、『デッドマン』、『ナイト・オン・ザ・プラネット』など観てきましたが、どれについても言えることは「行間を表現するのが上手い」と言う事。よくある映画が「最も見せたい所を図形として塗り潰すことで視聴者に訴えかける」という手法を取っているとするなら、監督の芸術表現は「被写体の輪郭を部分的になぞる事によって、その図形を想像で補いながら認識させる」という、"カニッツァの三角形"のような高度な段階にあるものだと思っています。その点において、この作品『パターソン』は暫定では完成形とも言える出来だったのではないかと感じました。

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小さな街、パターソンに暮らすバスドライバーの「パターソン」。妻を起こさないようにそっとベットを抜ける朝。相棒はちょっぴりわがままなブルドッグ。街に聞くほんのりオレンジがかった雑踏。行き付けのバーには親身そうなマスターと黄金色のビール。その日に想った事を何となく詩にしたためたり。そんな何気ない日常の、どうということも無い1週間を、遠くの陰から、小鳥になった気持ちでチラッと覗き見る。

大きな事件なんてないけれど、毎日少しずつ何かがゆっくりと変化していて、それに気づいたり、時には気づかなかったり。人生なんて多分そんなもの。そんなものだけど、きっとそれで良いんだと思う。バスが走る道には信号機も、金木犀もあるし、子供達だって元気にはしゃいでいる。だから、きっと急いだって仕方ない。今日も今日とて精神の安全運転。彼は白髪が増えても、ああやって幸せそうにクシャッと笑うんだろうなあ。いや、ずっとそうであって欲しいなあ。なんだか、自分の中の何かが、誰かに許されたような気がして、そんな小さな安堵感が、とても嬉しかった。
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この映画をここまで微笑ましく撮ることが出来るのはきっとこのタッグだけでしょう。もっと歳を重ねてからまた観たくなるような、そんな優しい作品でした…!
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