とれクラ

パターソンのとれクラのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
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もし私が前の恋人と付き合っている最中にこの映画を観ていたら、これほど感情移入でき、自分達のことを描いていると思った作品はなかったと思う
別れるまでに色々なことを対処できなかったし、直視できなかった問題もあったし、きれいな終わらせ方をできたわけでもない
離れたことは、今思えば劇的にプラスにもマイナスにもなっていないのかもしれない 正解でも不正解でもない ただ離別が必要な状況だった
でも私たちはそこそこ詩的で、美しい日々を過ごしていたという事実を思い出した
リアルな思い出を見ながら、自分の足元は確実にもう別の場所にあって、元恋人と寄り添わない人生に立っていることを実感した
二人のたくさんの一週間があった
たくさんあったけど、どの一週間も、二度と繰り返すことはない

穏やかに愛し合う日常があり、お互いがお互いの才能を信じてるし、自分の才能も自覚している
でも本当はお互いがお互いの情緒を十分に満足させられるほど、同じではない
女性には近所のフリーマーケットにカップケーキを出せば200ドルになる程度のクリエイティブな才能がある
女性はその才能を市場化することについて、いつまでも夢を見られる
男性は美しい詩を書く 
男性は情景から美しい言葉を詩に落とせる
詩をノートに書き、大切にしている
女性もその美しさを知っているし、市場化してはどうかと提案する
男性は女性の提案を否定しないし、傷つける返事をしないが、彼の情緒にとって市場化は重要ではないので、乗り気ではない
男性は詩的な毎日を繰り返そうとする
犬の散歩がてらバーに寄り、酒を飲み、街の人間達のドラマを知る
双子の話をしたら、魔法のように日常に双子が現れる
毎朝大切な相手にキスをする
繰り返される毎日の中には、噛み合わないことがたくさんある
違う人間だということを理解していても、あえてそれを相手に話し、溝を作る必要もない 
相手がいないと死ぬほど苦しいと思う
相手を大切に思う
心から大切に思う
劇的な事件は起こらなくとも、自分にとってはすごく心拍数の上がる事件は起こる
自分の心臓がどんなに脈打ったとして、それを感じられるのは自分だけ
女性のサプライズのギター演奏に充分な喜びを伝える反応を示してから、自分の職場での事故を報告する
女性も精一杯同情を示す反応をする
バーでおもちゃの拳銃の自殺騒ぎが起き、それを止める
女性は男性の身を案じ、バーに行くのを止める
男性からすればまず危険がないことをわかっているし、バーに行く詩的な状態を壊したくない
女性は男性が信奉する詩人の名前を思い出せない
女性のカップケーキが街のバザーで売れる
男性は精一杯喜んでみせる
良いことの記念にデートに出かける
デートで映画を観る
恋人同士の時間を大切にする
帰宅すると、男性の心を大きく占めていた詩のノートが犬に破かれていた
男性は1人の時にだけ、ようやく犬にだけ、クソ犬、と汚い言葉を吐く
女性は男性を心から励ましたい 色々な提案をする それこそクリエイティブな
しかし男性は詩を通してのみ得られていたものがあったし、彼女がこの喪失をどうにかできるわけではない
男性は女性の気持ちをありがたく思う
男性は、彼女が男性を励ませないことで気を病まないように、さらに気をつかう
女性も気をつかう  
同じ空間にいるため、男性の気が晴れない限り、女性は自分の存在だけで彼の気分をよくすることはできないと実感しつづけなければならない
男性はそれを申し訳なく思う

男性は散歩に出かける
いつも詩を生み出していた美しい滝を見る
異国の男性と詩的な出会いをする
異国の男性は奇跡のように信奉する詩人が同じだった
異国の男性は空白のノートを男性に渡した
男性はまた詩を書き出すことができる
男性は詩によって、自分の情緒を満足させられる
妻に満たしてもらうのではなく
そのほかで、自分で、どうにか満たされるしかなかった部分について、大いに満足する

そして明日も明後日も、女性にキスをすることを望んでいる

(私は実際に、紙に描いた漫画を手売りで売って2万円前後稼いだり、それを元恋人に喜んでもらったり、恋人にとって最適とは言えない彼の才能の市場化を提案したり、毎日相手にキスをすることを望んでいたり、とかしていた 懐かしい

でもこれから私はあなたのいない場所で
私はあなたによってではなく
自分によって自分を満たす経験をしなければならないし、あなたが生み出す美しさとは別の美しさを生み出す人生を歩むと思う

その自立は清々しくもあるし寂しくもある

あなたを愛した)
とれクラ

とれクラ