つかれぐま

まあだだよのつかれぐまのレビュー・感想・評価

まあだだよ(1993年製作の映画)
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【黒澤明の生前葬】

遺作となったこの小品は、内田百閒という実在文士の話を借りた黒澤本人の内面描写。観客は遺言を拝聴し、生前葬に参列する・・これは果たして映画なのか。

表層的には、内田百閒というさほど知名度の高くない文士とその教え子の交流という話だが、これほどの師弟愛が育まれた理由も観客には分からないまま。延々と続く飲み会シーンにも食傷するのは当然だ。これはそれを観る映画ではないからだ。教え子たちが百閒のどこに惹かれたとか、その辺の描写が薄いのも(黒澤には)その必要がないからだ。

本作は、晩年を迎えた黒澤自身の願望(あんな風に慕われて死にたい)、遺言(時勢への失望と、若者への期待)、そして謝辞(亡き夫人、スタッフ、ファンへの)なのだ。終盤に頭を下げ続けていた内田百閒の姿と黒澤がだぶる。明治生まれ士族出身という黒澤のプライドの高さは、庶民の考える次元ではない。そんな大監督が最後に見せた「精一杯の殊勝」として見れば、とたんに面白くなる。

あんな時代設定でありながら、戦没者の影が全くないのが却って不気味だった。教え子全員が存命だったはずはない。猫のノラを諦めるシーンで、妻や教え子とおいおい泣くシーンが不自然に見えたが、あれが追悼の暗喩だったのかも。