優しいアロエ

まあだだよの優しいアロエのレビュー・感想・評価

まあだだよ(1993年製作の映画)
4.4
 黒澤明の遺作。これが郷愁溢れる素晴らしい作品であった。内田百閒の随筆を元に、老年の彼と教え子たちの微笑ましい交流が描かれる。

 日常を起伏なく描いた本作。正直、それまでの作風とは異なっている。娯楽からはかけ離れているし、人間性や社会について提起するわけでもない。しかし、本作の中心にある「師弟の交流」は、黒澤明がしばしば描いてきたテーマである。デビュー作『姿三四郎』に『七人の侍』『椿三十郎』『赤ひげ』。師は弟子に本当に大切なことを伝えてくれ、弟子は師を心から慕うものである。師弟関係は人生に欠かせないものだという思いが一貫して感じ取れる。

 黒澤明の作品で声に出して笑ったことや涙を誘われたことはこれまでなかったと思う。しかし、本作には本当に笑わせてもらったし、最後はこみ上げるものがあった。本作は人物のギャグセンスが相当鋭いし、大勢の教え子たちと一緒になって笑っていたくなる心地よさもある。そして、自分の過去と重ねて郷愁に浸っていたくなる温もりもある。恩師と元教え子。私はまだそのどちらの経験もないが、すごく懐かしい思いで観ていた。本当にずっと浸っていたかった。

 とはいえ涙を誘われた本当の理由は、「黒澤明の遺作」であるがゆえに、彼の顔や過去の作品を思い返しながら観てしまったことかもしれない。やはり黒澤明の作品をいくつか観て思い入れを深めてからのほうが、本作の味わいは格段に高まるとは思う。
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