カルダモン

DARK STAR/H・R・ギーガーの世界のカルダモンのレビュー・感想・評価

3.8
H.Rギーガーの絵に出会ったのは5歳か6歳の頃だった。親が美術教師であるわたしは、自宅に転がっている画集を訳もわからず眺めていたのだ。そんな原体験の創造主が2014年に亡くなった時、なんとも言えず寂しい思いに駆られた。まるであの異世界への入り口が閉じてしまったかのように。

残念ながら本人はこのドキュメンタリーの完成を見ることがないまま亡くなってしまったが、最晩年の姿を後世に残す意味で記録が間に合って良かった。
ギーガーの屋敷は一歩足を踏み入れば、書籍やオブジェや絵画が所狭しと積み上がった洞窟のようだ。画面に映り込む飼い猫のムギ。ほぼ手入れがされていない庭に、オブジェや噴水が設えてある。それらを縫うようにレールが張り巡らされ、自作の幽霊電車が走る。
ギーガー本人は好々爺という表現がしっくりくるほど、穏やかで大らかな雰囲気が印象的で、まるで太ったヨーダのよう。
子供の頃に父親からもらった誕生日プレゼントは本物のドクロだったと語りながら、棚からドクロを取り出す。
好きだから描いているわけではない、絵に描き出すことで恐怖をコントロールできる。
エロスとタナトスを封じ込めるのではなく、絵の中で消化させることが、彼にとって生きる為のホメオスタシスになっているのだろう。
エイリアンのデザインが世に与えた影響は計り知れず、この先も恐らくその呪縛からは逃れられないのかもしれない。
何にも似ていない、どこからやってきたデザインなのかわからない。叶うなら日本で回顧展が行われることを願う。

そういえばその昔、六本木にギーガーBARがあったそうな。