岡田拓朗

バースデーカードの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

バースデーカード(2016年製作の映画)
3.9
バースデーカード

天国に旅立った母が20歳まで娘に送り続けた、愛の手紙。

朝から号泣。
自分の人生の主人公は自分であることへの肯定。
物語はその人の数だけ存在していてその物語に優劣なんてなくて、誰もがどれかの物語の主人公である。
誰かと比較する必要もなく、比較して劣等感を抱く必要もなく、自分という存在をちゃんとありのまま認めてあげる。
それができるのは他でもない自分自身である。

当たり前なんだけど気づかない忘れがちな大切なことに気づかせてくれた作品。
こんなにも感動して、涙が止まらなかった作品に出会えたのは久しぶり。

10歳のときに亡くなった母から毎年届くバースデーカードを通して、少女が大人になっていくまでを描くヒューマンドラマ。

幼い頃から母のことがとても好きで、母(宮崎あおい)が拠り所になっていた紀子(橋本愛)。
学校ではなかなかクラスの人と馴染めずに引っ込み思案。
そんな自分を好きなはずである母と比較してしまい、自分への劣等感から自分は主人公にはなれないと蓋を閉じてしまっていた。

他者との関わりをせざるを得ない環境下で、なかなか思うように自分を出せない関係を作ることの難しさから来る自己嫌悪が現実的で、そこに対比するように母の優しさと温かさがそれを和らげて包み込んでくれる。

このようなときに愛をちゃんと素直に受け入れられる時点で紀子が本当にいい子であることがわかるし、それはやっぱり母の凄さであることがわかる。
こんなときにそんな紀子にじゃあこうすればいいとか指摘になるんじゃなくて、ありのままの紀子を受け入れて肯定する。
紀子は紀子でよくて、その人のよさをありのまま肯定してくれる。
このような存在がいるだけでどれだけ救いになるのか、がよくわかる。

基本的に人は自分のことや思っていることをありのまま話すのは難しい。
それは家族でさえ難しくて、逆に家族だからこそ恥ずかしくてめんどくさくて言えないこともある。
どちらかというと思っていることを押し殺して生きてきた自分は、こういう救いが本当に素敵だなーとより思えるのかもしれない。

そんな家族としての温かさが詰まった前半だけでも泣けたけど、中盤から後半にかけての紀子の成長に常によい影響与えていく亡くなった母からのバースデーカードが本当に愛おしい。
ここで病気を過度に描かずに、全員が自分の人生を前向きに満足感を持って生きていて、そんな理想の現実を徹底的に描き切る姿勢ももブレてなくてよいなーと。
ひたすらに温かくて優しい。

ずっと母を思い続けられる姿も素敵だし、成長はするけど大切なことは忘れずに生きていける姿も本当によかった。
誰かと比較していても上を見ればキリがないから自分を否定せざるを得なくなる。
知らず知らずのうちに自分をいじめてしまう。

そんなこと考えずに自分が好きだと思うことやしたいと思うこと、満足感を得られること、もっとプラスに働くようなことをただできるだけで人生って素敵なんだなーと思えた。
そのような人生を歩むときに必要なのはやっぱり拠り所。
自分がそれでいいんだって思えることと誰かにそれを受け入れてもらえるってことがどれだけ幸せなことなのか。
人生ってもうそれだけで十分なんだなーと思った。

前半の伏線が後半に回収されてちゃんと物語になっててよいし、ちゃんと紀子以外の周りの人たちのその人のよさを描きつつ、最後の手紙でそれを表現し受け入れていく展開も総じて感動に繋がってめっちゃよかった。

父のユースケサンタマリアと弟の須賀健太が作品にとてつもないユーモアを与えてくれていて、憎めない感じがまたたまらない。
家族の関係性がもうベスト級。

どんな人の人生も前向きに包み込んでくれる感動作。
自分をついつい否定しがちな自己肯定感が低い方には特に観て欲しい作品。
刺さらない人には刺さらないかもしれない。
でも自分にはとても刺さりました。

涙本当に止まらないし、しばらくこの世界に入り浸っていたい。

P.S.
橋本愛と宮崎あおいは、透き通っていて純粋と愛が似合いすぎる。
この役で違和感を全く持つことができなかった。それが凄かった!
おそらくこれは理想郷であって現実はそう甘くないかもしれない。
でも橋本愛と宮崎あおいが演じるからそれを違和感なく一つの世界として受け入れることができた。
岡田拓朗

岡田拓朗