小松屋たから

アダムズ・アップルの小松屋たからのレビュー・感想・評価

アダムズ・アップル(2005年製作の映画)
3.8
この作品、何かの映画祭や特集上映ならともかく、よくぞ日本で通常の劇場公開が実現したな、と思った。神父を演じたマッツ・ミケルセンの人気ゆえなのかもしれないが、自分も含め平均的な日本人からすればまったく未知の分野の映画なんじゃないだろうか。配給を決めたどなたかが熱い想いを持っていたのだろう。

宗教的なメッセージ性が強い北欧映画。ざっくり言えば、「ヨブ記」やアダムとイブの逸話を現代に落とし込んだ奇妙な寓話、ということで良いのだろうか。通り一編の旧約聖書やユダヤ教、キリスト教、イスラム教の知識しか持たない身としてはかなりの部分を理解できないままでいると思うが、それにしても異色中の異色作。

ただ、グロさ、不快さもありつつ、なぜか、笑えるところもあり、感動するところもある。派手さはまったく無いが、予想外の展開の連続で退屈はしないし、なんだか、新しい映画体験だったことは間違いない。

ネオナチで自ら「悪党」と名乗るアダムという男が、更生プログラムの一環として強制的に送り込まれた鄙びた教会で出会う人間たちが、神父を筆頭にこれまた何とも一筋縄ではいかない妙な感覚の奴らばかりで、悪と善、神と悪魔、生と死の間を独自の解釈で行ったり来たりしながら暮らしている。

でもこの混沌や、異様さこそが宗教観の強い世界で生きている人々の心の中の苦悩をそのまま映し出しているのかもしれない。祈っても信じても神は特に手を差し伸べてはくれないし、とはいえ、悪魔がいつも自分を積極的に誘惑してくるわけでもない。人生は喜びと苦悩の繰り返しだが、それを自責とするか他責とするか、結局、自分にしか決められない。

この映画でアダムは最後に「リンゴを食べた」、すなわち、禁断の扉を開けた。それはつまり、「感情」を持ち他者の心の痛みを知る人間になったということか。

もちろん積極的に不幸になりたい人など余りいないと思うが、ただ、幸福一辺倒ではなく、喜びと悲しみ、両方の感情があってこそ多様性のある社会が生まれるのだ、と考えれば、人間が禁断の扉、楽園の外にでたからこそアートは生まれたのであり、今、我々が様々な映画を楽しめるのもそのおかげなのだ。だから、きっと、この作品はとてつもない人類肯定のお話なのだと思う。

…って偉そうに書いたけど当たってますかね?