パパイヤ男爵

ゴッホ~最期の手紙~のパパイヤ男爵のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
5.0
素晴らしいの一言。油彩アニメという発想もすごいが実際に完成させたのは見事としか言い様がない。ただ、この映画の評価はその製作方法だけに留まらない。

イントロの部分から自在に動く油彩画で一気に映画の中に引き込まれる。そして10分後にはゴッホの死の理由という最大のミステリーから目が離せなくなり、油彩アニメだということすら忘れてしまいそうになる。「夜のカフェ」「アルルの部屋」「星降る夜」などゴッホの名画が所々で効果的に使われるのも嬉しい。

基本的に人物は実写を元に油彩画にしており、過去の回想シーンはあえてゴッホ的な筆づかいから離れ写実的に。タンギー爺さんや郵便配達夫、ズアーブ兵など有名な絵のモデルが続々と登場するが特にガシェ医師はなかなかクセの強さがよく出ていたと思う。

ゴッホの死は今でも一般的には精神を病んだ上での自殺とされているが、以前から他殺説もあってそこを真正面から取り上げている。絵画ファンとしては当然気になるテーマだが、良質なミステリーとして予備知識なしでも充分楽しめるはず。実際に弟のテオもゴッホの死から半年後に亡くなっており、ストーリーはその後から始まる。最も親しかったテオという関係者がいない状態で主人公がゴッホに対する虚々実々の話を聞いていくうちに、ゴッホの人物像が鑑賞者にも少しずつ浮かんでくるはず。映画のテンポも良く、集中力を切らさずに最後まで見られる。

死の真相に関して当時の人々もゴッホもきっとこんな心情だったのではと素直に受け入れたくなる脚本からは、ゴッホ愛を充分に感じられる。原題 Loving Vincent に偽りなし。

なおこの作品のパンフレットは文庫本か新書本のような作りで、中身も丁寧なので映画が気に入った方にはぜひオススメ。


2回目鑑賞。やはり全体的にゴッホの好きだった紺(青)と黄色の組み合わせを意図的に多用しているなあと。こんなリスペクトの仕方もこの映画ならでは。今回も実写だかアニメだか油彩だか、見ていて分からなくなる独特の感覚。
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