あーさん

ゴッホ~最期の手紙~のあーさんのレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
4.0
気づいたら劇場鑑賞から一週間が経っていた。。

好きな作品であればあるほど、すんなりとレビューできないのは何故だろう?

と言って先延ばしにしてばかりもいられないので、ヘンリー・ミラーが言うように思いついた所から書いてみようと思う。。


1992年の『ゴッホと日本展』(京都国立近代美術館)、2010年の『没後120年 ゴッホ展』(国立新美術館)に行ったことがあるくらいだが、ゴッホはずっと好きな画家の一人だった。

しかし、画家仲間のゴーギャンとの軋轢、耳切り事件、生前絵が殆ど売れなかった等のエピソードが有名なだけあって、やはりゴッホといえば精神的に不安定とか暗いイメージが拭えないし、実際そう思っていた。
不屈の魂で絵を描く画家…と。

だが、彼の画家になるまでの経緯、絵を描いていた期間、弟テオとの関係等、初めて知ることが多々あり、目から鱗。。知っているつもりが、私はゴッホのその人となりまではきちんとわかっていなかったのかもしれない。

''ゴッホは本当に自殺したのか?"

28歳から絵を描き始め、37歳という若さで自ら命を絶ったとされるゴッホの死の真相。
ゴッホの友人である郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンが父からある手紙を託され、ゴッホが最期の10週を過ごしたというオーヴェールにゆかりの人物を訪ねながら究明して行く…というちょっとミステリー仕立ての物語。

これはリアルなのか?そうでないのか?本人しか知り得ない真相。
訪ねる人によって違う証言。
画商のタンギー爺さん、ガシェ医師、医師の娘マルグリット、家政婦ルイーズ、宿の娘アドリーヌ、貸しボート屋、、
一体、何が本当で何が本当でないのか?

ゴッホの絵の人物に似た俳優達が一度演じたものを、世界各国から集められた125名の画家達(日本からも30代の画家古賀陽子が参加)が62450枚の油絵として描き、ゴッホタッチの動く油絵をアニメーション映画に作り上げた。

これは…初めて観るタイプ!
今作に参加した画家達のゴッホへの愛がこの作品の中にたくさん詰まっている。。
パンフレットには気が遠くなるような作業…と書いてあったけれど、きっと誰も気が遠くなんてなってない。

ゴッホは両親に愛されたくて、褒められたくて、でも不器用だから上手くいかなくて、絵を描くことで世間に自分を認めてもらいたくて…。
真面目で努力家のゴッホがそこにいた。
とてもとても切ない姿。。
だからこそ、世の中から理解されない人間の叫びがゴッホの絵からは感じられ、そのキャンバスから強いインパクトを持って私達に訴えかけてくるのだと思う。
そんな純粋さゆえ一途とも言える彼を、私は狂っているとか精神異常とは思えず、とても愛おしいと感じた。

画面を観ながら何度も何度も涙が溢れた。。


一度観ただけでは全然理解するに及ばないのだけれど、
ゴッホが大好きな画家だということは私の中で決定的になった。

願わくば、フィンセント・ファン・ゴッホ、あなたに伝えたい。
あなたはこんなにも多くの人々に愛されている、と…。


会期に間に合うように、何とかゴッホ展にも足を運ぼうと思う。。





〔残念だったこと〕
初めて六本木ヒルズのTOHOシネマズで鑑賞したのだが、、
始まってしばらくして劇場が揺れるような振動を感じた。地震⁉︎と思ったが、周囲の人は気に留める風でもない。気のせいかな、と思ったけれど、あまりにも頻繁に続くのでおかしいなと思いながらもやり過ごしたのだが、何とも集中しづらく、劇場を出てからネットで調べて合点がいった。
どうやら上の階のMX4Dの振動が下の階にまで伝わっていたらしい。苦情を書いている方がいて納得。
しかし、静かな作品だったのでかなり長い間地震かも?という不安に付き合わされ、ちょっと興ざめな感もあった。
上映館が少なく、ここしかないと思って観に行ったのだが、、
次回はここで見る作品は選ぶなぁ…と正直思った。。



記録

2017.12.12 東京都美術館にて
ゴッホ展 "巡りゆく日本の夢"鑑賞。

1. パリ 浮世絵との出逢い

花魁(フィンセント・ファン・ゴッホ)→雲龍打掛の花魁(渓斎英泉)
名所江戸百景
五十三次名所図会
富士三十六景(歌川広重)
ディヴァン・ジャポネ(ロートレック)
ポンタヴェンの市場(エミール・ベルナール)

2. アルル 日本の夢

東海道五拾三次(歌川広重)
富嶽百景(葛飾北斎)
雪景色
アイリスの咲くアルル風景
糸杉の見える花咲く果樹園
花咲くアーモンドの木
麦畑
サント=マリーの海
水夫と恋人→残っていた絵画の一部。全体図を再現(by古賀陽子)
種まく人(ゴッホ)

『藝術の日本』ジークフリート・ビング編

3. 深まるジャポニズム

寝室
タラスコンの乗合馬車
アルルの女
男の肖像
夾竹桃と本のある静物
オリーヴ園(ゴッホ)
(歌川国貞)
(歌川国芳)
吉原美人他(渓斎英泉)

4. 自然の中へ 遠ざかる日本の夢

アニエールの公園
蝶の舞う庭の片隅
蝶とけし
ヤママユガ
ポプラ林の中の二人(ゴッホ)
三十六花撰
花鳥四季鏡(不詳)
茶屋 江ノ島(ルイ・デュムーラン)

5. 日本人のファンゴッホ巡礼

ガッシェの像(ゴッホ)

芳名録、書簡、写真、映像、書籍、絵画
(黒田重太郎、中澤弘光、里見勝蔵、斎藤茂吉、橋本関雪、式場隆三郎、奥山儀八郎、ポール・ルイ・ガシェ 他)

ゴッホが日本から受けた影響、アルルのことを日本の風景と重ねて理想化していたこと、ゴッホにとって医師ガッシェの存在…
映画からインスパイアされる事も多く、観てからゴッホ展に行ったのは正解だった。
よりゴッホのことを深く理解する手立てとなったように思う。
葛飾北斎・歌川広重らの功績、改めて花魁の衣装・髪型・化粧等日本特有の文化の芸術性の高さ、ゴッホの目指していたもの、色々考えを馳せる機会となった。とても素晴らしかった。
あーさん

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