【愛の人】
僕はあまり芸術には詳しくはありませんが、その中でも「青(碧)」の使い方が上手い画家の絵に目がいきます。マルク・シャガールや東山魁夷は特に好きで、美術館に観に行ったりしたこともあります。
そしてゴッホの「星月夜」や「夜のカフェテラス」なんかも好きでポストカードを職場のデスクマットに挟んでいたこともあった。
今作のオープニング、いきなり「夜のカフェテラス」から始まる。あの絵の舞台になった店というだけではない。「あの絵」なのだ。あの絵が動いているのだ。そして登場する人物たちも、ゴッホが描いた人たちが活き活きと動き出すのだ。どれも観たことがある人物(絵画)ばかり。それが動いて喋っているのだ。
あまりの衝撃にしばらく開いた口が塞がらなかった。
絵画は「静止」しているからこそ、鑑賞する側に「さあ、何を感じる?」と訴えてくる。余計な情報は一切与えない。ただ目で見たままの直感で「好き」「嫌い」「楽しい」「悲しい」「怖い」・・・。各々が評価する。そしてそのどれもが正解なのだ。
だから、正直言ってこの映画の存在を知った時、それはゴッホの作品に対する一種の冒涜にもなるのではないかとすら思った。
それは絵の解釈に「誰かの考え」を押し付けることになるから。
だけど、これは違った。この作画だからこそ成立した作品だった。
ゴッホのタッチに何か狂気めいたものを感じ、自らの耳を切り落とし、そして最期は自ら命を絶った。
今までの自分の「ゴッホ」のイメージはこんなもの。
・・・何もわかっていなかった。
これほど愛に満ちた人物だったとは思わなかった。生きとし生けるもの全てに分け隔てなく愛を注いだ人物だったのだ。
そして作品では、その「死の真相」にも迫る。
・・・ん?自殺じゃなかったのか?
観ている最中、段々とザワザワしてくる。
彼は畑で自分を撃ったと言って宿に戻り、その二日後にそのまま宿で亡くなったとされていたが、付近の人々の証言はどれも噛み合わない。
嘘をついているわけではないが、どれも違う事ばかりなのだ。
そして、ゴッホの最期を看取ったガシェ医師に辿り着く。そこで聞かされる真実に涙が出た。
周りの人、とりわけ弟のテオに対する愛情、感謝、懺悔・・・。
本当にすごい映画だった。音楽も最小限しか使わず、あくまでも絵の力だけで訴えてくる作品はまさに「絵画」を鑑賞しているときのそれだった。
この作品は125名の画家たちの手によって完成したと聞いた。
彼らに「愛を込めて、握手を送ろう」。