ルイまる子

ヒトラーへの285枚の葉書のルイまる子のレビュー・感想・評価

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年製作の映画)
3.9
総督はやがてあなたの息子も殺すだろう。そういった告発を書いたハガキを街のあちこちに置く、このハガキを読んだら又別の場所に置いて下さいとナチスの体制を批判する絵葉書を街のあちこちに置く。こうでもしないと息子を失くした悔しさ悲しさは収まらない、息子が戦争で亡くなった通知を受けた時妻は声を上げて泣いたが、オットーは泣かなかった、その代わり筆跡がわからないようにカリグラフィで絵葉書に体制批判を書き綴りそれを静かに街で広める活動を始めた。地味な労働者階級の夫婦のレジスタンスだ。それを追いかけるゲシュタポ隊員のエッシュリヒ警部。最後とうとう捕まってしまった時、絶対妻は逮捕するな彼女は関係ないと伝えたのに妻は進んで逮捕されに来た。なぜ逮捕するなと言ったのに!と怒りに震えるオットーに対し、警部は「手柄を独り占めさせたくなかったんだろう」と言った。「手柄」という言葉に込められた思い。エッシュリヒ自身も仕事だが心は反ナチスだった。第二次大戦中、日本も同じだが、独裁政権下の市民って我が国が進む方向を目の当たりに恐ろしいと思いつつもどうすることもできなかったんだろうと容易に想像は出来るが本作品はそういう市民のそれぞれのリアクションをリアルに見せている。政府の犬になりきっている「弱い」者、またはなんとなくやり過ごす者、政府に通報が義務の立場でありながらも心からこの葉書に応援する者。ゲシュタポの隊員であろうと中にはそういう人も多かったのだろう。何か反政府的意見口にしたら拷問終いには殺されてしまうし。淡々とした映画で夫婦がこの地味な活動を始めた頃からそのうち終わりが来るのだろうとは予想出来たが、始まりから終わりまで良い老夫婦を見届けるという立場で視聴する。この良い人達がいつ捕まるのだろうか、お願い捕まらないでととハラハラさせられるサスペンス仕立てで映画としては退屈させず面白く仕上がっている。エマ トンプソンとブレンダン グリーソン夫婦の演技が素晴らしい。余談だが、この「カリグラフィ」という手法、いつか習いたい習いたいと思いつつ終ぞ習う機会がなかったが、今年こそ習おうと思っています。art of fine handwriting、素敵です。
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