ダイヤモンド

アスファルトのダイヤモンドのレビュー・感想・評価

アスファルト(2015年製作の映画)
3.0
 不思議な感覚だ 君には別の人生があるみたいだった_。
 
 いまは落ちぶれて、郊外の団地で燻るベテラン女優ジャンヌ。輝いていた昔の自分を思い、結ばれなかった恋人を未だに想う彼女は、本当なら生きていたはずの“別の人生”を捨てられないでいた。しかし、団地の向かいに住む若い男の子と触れ合う内に、心が癒されてゆく。
 アルジェリア系の老婦人ハミダ。愛する息子は服役中。そこに突然やってきたのが、地球帰還の誤着により団地の屋上に不時着したアメリカ人宇宙飛行士ジョン。言葉こそ通じないものの、間もなく心を通わせる。本当なら息子と過ごしているはずの幸福な日々。それが叶わない彼女だったが、束の間ジョンに息子の姿を見て、満たされる。
 風体の冴えないスタンコヴィッチ。脚が不自由になったのをきっかけに、深夜に病院の自動販売機を通うようになる。たまたまそこに居合わせた夜勤の看護婦に恋をした彼は、彼女の気を引くためにプロの写真家であると偽る。必死にその嘘を演じる彼の不器用さに、誠実さと純真さのようなものを感じたのか、やがて彼女は惹かれてゆく。

 先の言葉は、ジャンヌの向かいに住む男の子が在りし日の彼女の映画を観て思った言葉。
 文字通りジャンヌは私生活と、映画の中で演じる役を生きている。ハミダは離れ離れになっている愛息との長い年月とは別に、偶然現れたジョンと過ごす二日間に母としての喜びを思い出す。スタンコヴィッチは不自由で孤独な日々を送る一方、偽りの自分を演じることによって繋がる看護婦との束の間の時間にときめく。
 人は大概、“別の人生、または別の何ものかを演じる自分”を抱きながら、日々を生きる。その毎日が空しければ空しいほど、“それ”への憧憬は強い。その空虚を埋める、たまさかの出会い、罪のない偽り。無味乾燥な団地を舞台にした、少しだけ心が温まる映画。

 ハッピーエンドにさせすぎない、フランス映画の真骨頂の典型。
 この映画が好きか嫌いかで、フランス映画アリナシかが判るかも(もちろん、わたしは好きですョ)。