脇腹をこそぐられながら始まった団地生活。薄白く曇った日々にポトッとあたたかいしずくが落ちる。
少しの傲慢さと小さな嘘、こっそりと抱きかかえていた悲しみに、目を見開くような事故。散り散りになった霧のような日常が湿度を帯びていく。
こそぐられながらクスクスと笑っていたと思ったら、次の瞬間には長い爪で引っ掻かれる。そして胸をギュウゥッと束ねられる。
“幸せ”というのは仰々しい。
“あたたかい”というのも少し首を傾げる。
各々が各々として生きていく、ささやかで大切な灯り。
エアコンでキンキンに冷やした部屋で凍えていた体は、ヘリコプターが去る頃には指先までひたひたに優しい気持ちで満たされた。