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シリア・モナムールの小のレビュー・感想・評価

シリア・モナムール(2014年製作の映画)
4.0
むき出しの憎しみ、むき出しの暴力、むき出しの死。

死と隣り合わせで生きている人がいることを、自分はどのくらい知ればよいのだろう。あとどのくらい知ったら、終わるのだろう。

映画とは何なのだろう。観終わったら「シリア、怖いね」とつぶやくだけで、もう気持ちは明日の現実に向かいそうな自分は、映画の中の現実とどう向きあえば良いのだろう。

映画だと思って安心して、無防備な自分に、過酷な現実を突きつける意味は何なのだろう。意味は観る側にかかっているのだと言われているように思えて、気が重くなる。

亡命先で映像を集めることしかできない監督。包囲攻撃を受ける街で暮らし撮影を続けるクルド人女性から映像を受け取り、自らを省みて、自問する監督。監督は私などよりもはるかに気が重く、悩み、とても心を痛めているだろう。

それでも悲惨な状況を赤裸々に表現した映画を作らざるを得ないのは、贖罪なのだろうか、それとも祖国、同胞への愛なのだろうか。

シリアで独裁政権に虐げられている人々の力になれることを思いつかない自分は、映画を観て悲惨な現実を知ることで、良心を少しだけ満足させ、またいつもの現実に埋没していく。

自分の身の回りの現実は確かに重要だ。でも、その現実を偏重し過ぎてはいないだろうか。時に現実と対立してしまうような大切なこととのバランスが崩れてはいないだろうか。

世の中を、世界を変えるために、とても小さいけれども、確実な第一歩、それは自分が変わること、変わろうと意識すること。

内向きでなく、不寛容でなく、排除的でなく、攻撃的でないように心がけること。それはつまり、非武装の人々を容赦なく攻撃する人達と反対の心構えを持つこと。案外難しいことだけど、シリアの現実を知ることは、この難易度を下げてくれるのかもしれない。
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