平野レミゼラブル

鉄コン筋クリートの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

鉄コン筋クリート(2006年製作の映画)
3.4
自分の好きな世界観として九龍城的な街並みというのがありまして、物凄くベタではあるんですが理想的なのがブレードランナーの世界観。
あの猥雑で雑多な雰囲気、多国籍でよくわからないモノで溢れかえっているワンダーディストピア。あれが好き。

本作の舞台である宝町も古き良き日本の商店街かと思えば、何故か時計台にガネーシャが飾られていたりのカラフルな混沌っぷり。
そんな街中を主人公のクロシロ兄弟が、縦横無尽にぬるぬる"とび"まわるんだから、それだけで堪らない。
クロシロ兄弟は宝町を根城にして、ナワバリを犯す奴には容赦ない制裁を加えるが、自分たちは早く町から出ていきたいという矛盾の存在。
そんな相反する性質は、町を塗り替えようと画策するヤクザや謎の組織にとりあえず喧嘩を吹っ掛けるアクションに繋がるが、町が変わっていく流れは止められないという一種の諦念の現れでもある。
そんな歪な現状を気持ちの良い"とび"はねで足掻いている姿は、エネルギーに溢れていて爽快ではあるが痛々しくもある。

本筋のクロシロと交わりながら進むネズミのカバーストーリーは顛末も含めてまんまヤクザ映画そのもので、映画2本立てのような豪華さがある。
宝町が大好きで、変わらないままの街にいつまでもしがみついていたいという老ヤクザの悲哀はクロシロとの対比にもなっていて印象的だし、色彩豊かでどこかポップなアニメーションの中でのノワールは一層際立つ。

最終的になんか絵も表現も抽象的になりすぎて、結末をぼかされた不完全燃焼感はあるものの、全体的な雰囲気は物凄く好みな一作だった。

声はほとんど俳優業の人で本職ではないけど、慣れてくればそこまで気にならないレベルかな。
ニノ、蒼井優、モックンは最初から上手かった。特に蒼井優のシロなんて結構難しい役だと思うけど、終始違和感なく声が馴染んでいたし。