せーじ

鉄コン筋クリートのせーじのレビュー・感想・評価

鉄コン筋クリート(2006年製作の映画)
4.5
182本目は、以前から観たいと思っていたこの作品を。
例の結婚発表がされて以来、貸し出し中で借りれなかったり、テレビ放送されるというのに見逃してしまったりと、なかなかタイミングが合わなかったのだが、ようやく借りることが出来、鑑賞。
なお原作は未読(これも読まなければなぁ…)

いやぁ、すげぇ作品だなこれ!オラおどれぇちまったぞ!!となってしまいました。

まず冒頭から、昭和の日本と香港、それに中国やインドなどの東アジアの文化が融合したかのような独特の世界観に強く引き込まれてしまう。誰も見たことがないはずなのに、どこか懐かしい、それでいて退廃的な空気を感じさせる「宝町」(たからまち)というこの街の魅力を、アニメーションで完全再現させた、表現しきってみせたというのはとんでもなく凄いことだと思う。
その街を文字通り「ネコ」のように駆け巡って大暴れするシロとクロは、とても魅力的な存在だと思うし、じいちゃんをはじめとする彼らを見守る存在や、彼らと対立するヤクザたちも、とても魅力的に描かれていると感じた。

一方でストーリーは、特に後半、抽象的な内面描写が加速をしていき、観た直後はどういうことを描いているのかがわかりにくいと感じたりもしたのだが、自分自身の中の「良心と狂気」の存在に気がつき、コントロールをしていきながら生きていくことが「成長するということ」であり「変わること」なのだと伝えている様に自分は思った。その「狂気」の存在を認めつつ、否定しない結末にしているところが、とても誠実で素晴らしいと思う。「変わること」を否定せず、でも彼ら自身の本質は「変わらずに」生きることを示唆したエンディングを見て、感動をしたのは言うまでもないことでした。

そしてもちろん、本作の特筆すべき点として、蒼井優さんの神がかった声の演技を挙げない訳にはいかないでしょう。凄すぎます。
自分は原作を読んでいないので実際どうなのか正確なところはわかりませんが、「シロ」というキャラクターの理解度がとんでもないことになっています。彼女のファンであるなら、必見でしょう。
もちろん彼女だけではなく、他の出演者の方々の演技もハイレベルだと思いました。(個人的にはネズミこと鈴木役の田中泯さんが好きでした)
アニメーションでありながら、おそらくジャンルとしては「ノワール」に近い作品であり、相応の暴力描写がてらいなく描かれているので、万人にお勧めできるかと言うとちょっと不安なところもありますが、よく出来ている作品だと思います。
ぜひぜひ。
せーじ

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